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第20回 バックロードホーン末端の広がり処理1
一部のバックロードホーンでは、ホーンの形状を単純なエクスポネンシャル曲線とせず、ホーン末端を大きく広げた形状としています。例えば、長岡鉄男先生の代表作「D-58ES」など、評価の高い作例においてもそうした特徴が見られます。
「D-58ES」の音道構造
たとえば、長岡先生の代表的なバックロードホーン「D-58ES」は、上図のような音道構造になっています。緑色で示したホーン前半部は素直なエクスポネンシャルホーン(ややコニカルホーンに近い)ですが、
赤色で示したホーン後半部はまた別の大きな広がりをもつホーンが組み合わされています。
D-58ESの音道構造
問題は、このホーン後半部がどの程度意味があるのかということです。
ホーン後半の広がりは極めて大きいのですが、ある人は効果がない、ある人はホーン鳴きが抑えられると言います。
この効果をシミュレーションソフトHornrespを使って確認してみます
計算の条件
こちらの図に示すように、ホーンの後半10%をエクスポネンシャルホーンから広げていったときの状態をシミュレーションしてみました。
ホーン前半の体積は同一のため、ホーン後半が大きくなればなるほど、ホーン全体の容量は大きくなります。
周波数特性
開口部の面積を280cm2から徐々に増やしていったときの周波数特性の変化を以下に示します。それぞれの
ホーン後半のカットオフ周波数(fc)も併記します。
①開口部 280cm2(通常のエクスポネンシャルホーン、fc=27Hz)
②開口部 420 cm2、 fc=82Hz
③開口部 560 cm2、 fc=122Hz
④開口部 1120 cm2、 fc=267Hz
⑤開口部 2240 cm2、 fc=312Hz
⑥開口部 4480 cm2、 fc=406Hz
中低音域の特性
①→⑥にかけての全体的な変化としては、
200 Hz~1 kHzのピークディップが小さくなっていくことが分かります。これは、ホーンの開口部が大きくなることで、共鳴を生み出すホーン端面での反射が少なくなったことが原因といえるでしょう。
より詳しく見ていくと、200~400Hzの特性では
300Hzのディップが①→④で減少していく様子が分かります。一方で、④→⑥では余り変化はありません。
400Hz~1kHzの特性では、
500Hz付近のピークディップは、④が最も穏やかな特性となっており、開口部が小さい①はもちろん、開口部を極端に大きくしてしまった⑥においても鋭いピークが観測されます。
⑥まで開口部を大きくしてしまうと、ホーンのカットオフ周波数(fc)も大きくなってしまい、中低域のピークよりも高い周波数領域でのみ
低音域の特性
①~⑥において、
40~200Hzの低音域には殆ど変化が見られませんでした。③以降では、どれもホーンカットオフ周波数(fc)が上がってしまい、重低音域が減衰してしまうとも想定されましたが、そうした影響はありませんでした。
インピーダンス特性
次に、インピーダンス特性を比較します。
①開口部 280cm2(通常のエクスポネンシャルホーン、fc=27Hz)
②開口部 420 cm2、 fc=82Hz
③開口部 560 cm2、 fc=122Hz
④開口部 1120 cm2、 fc=267Hz
⑤開口部 2240 cm2、 fc=312Hz
⑥開口部 4480 cm2、 fc=406Hz
インピーダンス特性では、①~⑥において殆ど同一の結果が得られました。
群遅延特性
最後に群遅延特性を比較します。縦軸はグラフにより変わっているので、値をよく確認して比較することが大切です。
①開口部 280cm2(通常のエクスポネンシャルホーン、fc=27Hz)
②開口部 420 cm2、 fc=82Hz
③開口部 560 cm2、 fc=122Hz
④開口部 1120 cm2、 fc=267Hz
⑤開口部 2240 cm2、 fc=312Hz
⑥開口部 4480 cm2、 fc=406Hz
300~400Hzに注目すると、開口部を広げなかった①では40ms以上の群遅延があったのに対し、
開口部を広げた④や⑤では30ms未満に群遅延を抑えることができました。
400Hz以上の特性は、①→⑥の変化で増えたり減ったりしており、ホーンの広がりとの明確な関連性は確認できませんでした。
まとめ
今回は、ホーン末端の形状のみを変えてのシミュレーションを行い、次の結果が得られました。
・ホーン開口部を適度に広げると、300~500Hzのピークディップが抑制される。
・ホーン開口部を
極端に広げると、300~500Hzの特性は悪化する。
・ホーン開口部の広げ方により、200Hz以下の低音域は影響されない。
~続く~
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