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第10回 ホーンからの音の干渉と、周波数特性
ここまでで、FE168SS-HPを使ったバックロードホーン型スピーカー「S-076」のユニット直前特性、ホーン開口部の特性を見てきました。
図面は
こちら
こうしたユニットやホーンから出てくる個々の音の周波数特性と、それが合計されて得られる周波数特性はどのような関係があるでしょうか。
改めて、3つの周波数特性を見比べてみます。
<ユニット直前特性>
<ホーン直前特性>
<等距離60cm特性>
※「等距離60cm」特性の測定方法については
こちら。
周波数特性のピーク(凸)について
まず、ホーン開口部(直前)の特性では、ピークに相当するのが50Hz、110Hz、180Hz、250Hz、320Hz、390Hz...といったところでしょうか。
次に、等距離60cm特性を見てみると、70Hz、100Hz、180Hz、320Hzにピークが確認できます。
おおむねホーン直前の特性で確認できたピークの位置と一致していますが、若干の違いもありました。
たとえば、等距離60cm特性で見られた70Hzのピーク。これは、このS-076の低域再生限界に直接的に関係するので、注目すべきポイントです。等距離60cm特性では大きくハッキリとしたピークですが、
ホーン開口部特性では小さいブロードなピークに留まっています。
これは、2つの解釈をすることができます。一つは、ホーンとしての特性。もう一つは、部屋の定在波の影響です。
ホーンの開口部は断面積が広く、室内空間へ穏やかに音が広がっていきます。ここで周波数特性を測っても、あまり目立ったピークが得られないことが多くあります。特に、一番下の共鳴周波数(基音共鳴)は小さくブロードなピークとして現れることがしばしばあります。
こうしたことは、同じ音響管型スピーカーの共鳴管型では起こりにくく、バックロードホーン型スピーカーの典型的な形だと思っています。
※共鳴管型スピーカーの場合は、振動板が重いユニットを使うと、基音共鳴のピークが得られやすい。
もう一つは、部屋の定在波との関係です。今回S-076を測定した部屋は、天井高が2.4mの一般的なアパートの一室です。上下方向の定在波を計算すると 340(m/s)÷2.4(m)÷2=70.8(Hz)となり、ちょうどピークの位置と重なります。
S-076は、
ホーン開口部が底面に近い場所にあり、部屋の上下方向の定在波を励起しやすかったと考えられます。これは決して悪いことではなく、重低音域の低音量感が不足しやすいバックロードホーンにおいて、70Hzの量感を稼ぐ手法として注目すべきでしょう。
周波数特性のディップ(凹)について
次に、ディップ(谷)になる位置を見てみます。等距離60cm特性を見ると、
130Hz、230Hz~250Hz、600~700Hzにディップが読み取れます。
<等距離60cm特性>
一方で、こうしたディップ(谷)は、ホーン開口部やユニット直前特性から読み取ることはできません。似たようなところにディップがあるようにも見えますが、問題にしている等距離60cm特性で観測されたものとは、若干ディップの周波数が異なっていることが分かると思います。
これは、
ユニット、ホーン双方からの音が干渉して、減衰しているために生まれたディップだと考えています。
ユニット振動板の裏から、長いホーンを通ってきた音は、各周波数特性によって様々に位相が変化します。たとえば1.7mのホーンでは、20Hz以下ではほぼ逆相ですが、100Hzでは正相。200Hzでは再び逆相に。そして300Hzではまた正相になります。
※ユニット振動板の前面から出てくる音を基準とした位相。
上記は、ホーン共鳴がない場合の位相であって、共鳴が起こるとさらにそこから位相が変化します。シミュレーションソフト(「HornResp」など)を使えば、どの周波数がどういった位相で出てくるかの検証をすることができますが、私はまだ経験が浅く、シミュレーション結果と聴感で受ける印象との対比ができていません。
~続く~
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