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第09回 ホーンの癖は吸音材で消せるのか
前回に引き続き、FE168SS-HPバックロードホーン型スピーカー「S-076」の特性について見ていこうと思います。
図面は
こちら
今回のお題は、
ホーン開口部の特性です。
<S-076 ホーン開口部直近>
バックロードホーン型スピーカーでは、ホーンから低音域が再生されます。低音域とは言っても、実際は周波数特性を見て分かるように、200Hzより上の中低域も含めた音になります。
ホーンから200~500Hzの中低音域が出てくることは決して悪いことではありません。ホーンから中低音域が出てくることで、フルレンジスピーカーにありがちなハイ上がりな音(中高音域より上が強い)をうまく相殺することができます。小口径フルレンジは、メーカーが公開する周波数特性に「バッフルステップ効果」が加わることにより、中低音の音圧が不足しやすいのです。
バックロードホーンスピーカーが「口径を凌駕する低音感」を得ることができるのは、
ホーン開口部から200~500Hzの中低音が加わり、ピラミッドバランスの帯域バランスになるためだ考えています。
ホーン共鳴音と、吸音材の功罪
しかしながら、余りにも強い共鳴音がホーン開口部から出てくるのは問題です。
以前に「S-019 ヘキサロード」という8cm口径フルレンジユニット(Fostex FE83E)を使ったバックロードホーン型スピーカーを作ったことがありました。
S-019 「ヘキサロード」 ※図面は後程掲載予定...
こちらのホーン開口部特性は次のようなものでした。
<S-019 ホーン開口部直近>
「S-019 ヘキサロード」では、
ホーン内部に一切吸音材を入れなかったり、内壁を油性ウレタンニスで塗装したりと、ホーン共鳴をダンピングする要素を一切排しました。こうした工夫が仇となり、このように200~800Hzに何本もの鋭いピークが現れる特性になりました。
特に、
ホーン内壁をウレタンニス塗装したのは大失敗で、中低域の共鳴どころか、「ヒンヒン」と甲高く鳴る、ホーン内部の定在波も生み出してしまいました。合板やMDFの適度にザラザラした表面は、程よく音を吸ってくれるため、塗装せずにそのままホーン内壁に使ったほうが良いようです。
こうしたホーン共鳴を抑えようと、
ホーン開口部から吸音材を入れても、後の祭りです。吸音材をホーン出口から入れる行為は(効果がないわけではありませんが)、最低音域の量感・質感を大きく損ねてしまいます。
以下に、吸音材を入れた時の周波数特性を示します。確かに、200~800Hzの鋭いピークは抑えられますが、それと同時に(吸音材がない時には確認できた)60Hzや100Hzにあった重低音を支える小さなピークが消えてしまっています。
<S-019
【ホーン開口部から吸音材を挿入】 ホーン開口部直近>
バックロードバスレフ型のメリットとデメリット
最近流行りの、
バックロードホーン開口部の面積を著しく絞る手法(バックロードバスレフと呼ばれることが多いです)は、非常に効果的にホーン鳴きを抑制できるメリットがあります。また、最低音域の音圧が増す効果もあり、周波数特性は大きく改善することができます。
その一方で、開口部が広がっていることにより得られるホーンとしての動作は阻害されるため、低音の音色感はバックロードホーンのものとは異なってしまうデメリットがあります。
バックロードバスレフ方式の「S-045」
ホーン鳴きを抑えるための効果的な手法
バックロードホーンにおける
適切な吸音材設置ポイントは、ホーン音道の中央部付近です。流速の早いスロート部や、基音共鳴の腹に位置するホーン開口部に吸音材を設置するのは望ましくありません。
吸音材レスが理想のように語られることもありますが、
吸音材を使うこと自体は悪ではありません。バックロードホーン型スピーカーを発表する評論家の先生も、それぞれの好みに応じて吸音材の多少を決めています。求めるサウンドを作るために、賢く吸音材を使用していきたいものです。
あとは、ホーン設計や、スピーカー全体の設計で、重低音域の音圧が稼げていない場合、相対的にホーン鳴きが気になりやすい場合もあります。バックロードホーンスピーカーは、全体コンセプトの設計で勝敗が決まることが多いため、コンセプト次第では何度試作を重ねても苦戦をすることがあります。この辺はまたどこかで説明しようと思います。
~続く~
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