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1-08 オススメのBH向けユニット6選(2023)
バックロードホーンは、それに適したスピーカーユニットの選択が必要です。バックロードホーンを20台以上作成してきた経験をもとに、2023年のいま、5cm~20cm口径でおすすめのスピーカーユニットを紹介していきます。
① 5cm口径のおすすめのスピーカーユニット
ParcAudio DCU-F071W
5cmという超極小のフルレンジでのオススメスピーカーユニットは、「ParcAudio DCU-F071W」です。小さな口径ながら、ウッドコーンやネオジムマグネットなど拘りの造りになっており、他の安価なフルレンジとは一線を画す音質になっていることがオススメの理由です。価格はペア1万5千円程度。
私もParcAudioのユイットは何度か使ったことがありますが、爽やかでヌケが良く、硬質な癖をもたない音質が特徴です。5cm口径のDCU-F071Wは、程よい周波数特性でバックロードホーンとの組み合わせにもってこいです。
Youtubeに作例の動画がありましたので、載せておきます。こちらの作成のように、ブックシェルフサイズでホーン開口面積を小さめに設計することで、バランスの良い音質が得られるでしょう。
他の5cm口径ユニットについて
少し前であれば、「2013年8月号付録スキャンスピーク5㎝フルレンジ(5F/8422T03)」という有名なユニットもあったのですが、2023年現在は完売してしまいました。その上位版ともいえる「
ScanSpeak 5F/8422T01」はペアで2万円強とやや高価ですが、ScanSpeakならではの艶やかな音質が特徴です。
② 8cm口径のおすすめのスピーカーユニット
Fostex FE83NV2
8cm口径のオススメスピーカーユニットは、Fostex FE83NV2です。初代FE83から、実に30年以上の長きにわたって改良が重ねられ、2022年に登場した最新型が「FE83NV2」です。
わずか1.4gという超軽量振動系を搭載。BHに入れても淀んだ響きにはならずに、その魅力を引き出してくれます。分割振動が巧みにコントロールされた最新素材の紙コーンは、かつてのような紙臭さのある音とは一線を画した使いやすさがあります。ベールを剥がしたような生々しさが、小口径でも楽しめるのはFE83NV2ならではといえるでしょう。
FE83NV2の説明書には、バックロードホーンの推奨図面が掲載されています。空気室容量は0.9L、スロート断面積は18.4cm2(振動板面積の約66%)、ホーン長は約1.7m、ホーン開口部面積は148cm2(スロートの約8倍)という設計です。長岡先生のスパイラルホーン「D-103エスカルゴ(※10cm口径向け)」とほぼ同体積の8cm口径タイプとして貴重な作例になっています。
FE83NV2 取扱説明書より
FE83NV2のスペックは、バックロードホーンに不向きと言われることがありますが、類似の特性を有する歴代のFE83では数多くのバックロードホーンが製作されています。
作品名 | 設計者(敬称略) | 図面参照先 |
D-83フラミンゴ | 長岡鉄男 | ONTOMO MOOK
「バックロードホーン・スピーカーをつくる!」
設計:1997年(FE83用) |
ASB283En | 浅生昉 | ONTOMO MOOK
「バックロードホーン・スピーカーをつくる!」
設計:2018年(FE83En×2発用) |
カイツブリ | 炭山アキラ | オーディオベーシックVol.52
設計:2009年(FE83E用) |
「D-83 フラミンゴ」は10cm口径の伝説的バックロードホーン「スーパースワン」の小型版として設計されました。読者の強い要望に応じて、長岡先生が「どう見てもBH向きではない」といったFE83にバックロードホーンを合わせた力作です。結果は大成功で「とても8cm一発とは思えないスケールと分解能のある音、音場感も抜群である」というコメントを残しています。
「ASB283En」は、FE83Enを2初使ったバックロードホーンです。オーソドックスな箱型バックロードホーンに一工夫加えた作例として注目できます。
「カイツブリ」は、炭山先生初の本格的な鳥形BHとしての作例です。8cm鳥形の作例として人気があり炭山先生のブログのコメント欄でも話題になっていました。なお、スーパーフラミンゴとの比較試聴では「パワーと切れ味のスーパーフラミンゴ、クセの少なさでカイツブリ」とのこと。
(参考)私がブログを始めたわけ: Let's Enjoy CraftAudio (asablo.jp)
他の8cm口径ユニットについて
Fostexには、より安価な「P800K」というユニットがあります。こちらもなかなかの実力の持ち主で、比較的繊細な音の表現も得意としています。
8cmフルレンジは、各社の激戦区になっており、こちらの比較試聴動画でそれぞれの特長が分かるかと思います。動画はバスレフ型のエンクロージュアですが、バックロードホーンには積極的で明るい音色をもつスピーカーユニットがマッチするでしょう。
③ 10cm口径のおすすめのスピーカーユニット
Fostex FE108SS-HP
FE108SS-HPは、2022年にFostexが販売した10cm口径の限定ユニット。量産の縛りを解き放って、現在のもてる全ての技術をつぎ込んで設計されたのが「限定ユニット」です。過去にも同様のコンセプトで数年おきに発売され、どれも名機として中古市場で高い評価を得ています。
FE108SS-HPは、バックロードホーン専用に吟味された設計になっています。軽くて強靭な振動板、異常なまでに大きな磁気回路、正確に動くダンパーなど、その全てがバックロードホーンにとって理想的なものです。
設計者と、評論家 炭山アキラ先生の対談はこちら。
FE108SS-HP特集 その1|Fostex (note.com)
一昔前の限定ユニットは、ハイ上がりな特性で使いにくさがあるとも言われましたが、「SS-HP」はバックロードホーンに求められる鋭さと、聴きやすい穏やかさを併せ持つ製品です。設計の段階で長岡鉄男氏のバックロードホーン箱「D-101s
スーパースワン」との組み合わせを想定するなど、ユーザーにとっても使いやすいものになっています。
FE108SS-HPの取扱説明書には、一般的な箱型のバックロードホーンの図面が掲載されています。空気室容量は約2L、スロート断面積は48cm2(振動板面積の約96%)、ホーン長は約1.8m、ホーン開口部面積は417.6cm2(スロートの約8.7倍)という設計です。10cmの限定ユニットの特性に対応しつつ、コンパクトで作りやすい作例になっています。
FE108SS-HP取扱説明書より
10cm口径の限定ユニットは、数年(約5年ごと?)おきにFostexから発売されています。そのときに合わせて様々な作例が作られていますが、「FE108SS-HP」に合わせて作りたいのは下記の作品になるでしょう。
作品名 |
設計者(敬称略) |
図面参照先 |
D-101s
スーパースワン |
長岡鉄男 |
ONTOMO MOOK
「バックロードホーン・スピーカーをつくる!」
設計:1992年(FE108S用) |
スフィンクス |
佐藤勇治 |
ステレオ 2022年1月号(製作)、8月号(調整)
設計:2022年(FE108SS-HP用) |
ヒシクイ |
炭山アキラ |
ステレオ2016年2月号
設計:2016年(FE108-Sol用) |
スーパーレス |
炭山アキラ |
ステレオ2022年5月号
設計:2022年(FE108SS-HP用) |
特に、FE108SS-HPに合わせて発表された佐藤勇治氏の「スフィンクス」は、斬新な設計で注目できる作品です。実際に試聴した方のブログでも高評価がなされています。
フォステクスのスピーカーユニット FE-108SS-HPを聴いて来ました | 此木秀司のBlog (ameblo.jp)
他の10cm口径ユニットについて
他の10cm口径では、量産タイプの
FE108NS(2020年発売、ペア4万円強)がありますが、FE108SS-HP(ペア5万円前後)との価格差はあまり大きくなく、FE108SS-HPが手に入る現時点ではあまりおすすめとは言えません。
より安価な
FE103NV2(2022年発売、ペア1万7千円程度)は、バックロードホーン入門用の10cm口径フルレンジとしてオススメできる製品です。FE108SS-HPと比べると品位や低音の伸びで劣る部分もありますが、生々しい表現力を持つ軽量紙コーンの魅力を思う存分楽しむことができます。詳細は割愛しますが、取扱説明書にバックロードホーンの作例もあるので初心者でも手軽にチャレンジできるでしょう。
10cm口径以上のサイズでは、Fostexのフルレンジがバックロードホーン用としては独壇場になります。バックロードホーンに適した特性を長年追求しているFostexならではのユニット設計ノウハウが生かされており、ハッとするような生々しい音を奏でてくれるのです。
④ 12cm口径のおすすめのスピーカーユニット
Fostex FE126NV2
12cm口径は、10cmと16cmの間のサイズです。10cmより鮮明な描写力がありつつ、16cmよりコンパクトかつ安価に作れるのが12cm口径の魅力です。とりわけ「FE126NV2」はペア2万円弱と安価でありながら、バックロードホーンを十分に駆動できる能力をもち、さらにはスーパーツイーターの追加なしでも十分に満足できる綺麗な高域が得られるのが特徴です。
FE126NV2の取扱説明書に掲載されているBH箱の設計図では、空気室容量は約1.9L、スロート断面積は40cm2(振動板面積の約60%)、ホーン長は約1.8m、ホーン開口部面積は512cm2(スロートの約12.8倍)という設計です。スロートはしっかり絞りつつ、ホーン開口部は大きく開ける設計になっており、バックロードホーンらしいダイナミックな低音をFE126NVから引き出す設計といえます。
FE126NV2の取扱説明書より
12cm口径の作例は少ないのですが、過去のFF125KやFE126Enといった過去作との互換性があることを考慮して選ぶことができます。以下に、代表的な作例を載せます。
作品名 |
設計者(敬称略) |
図面参照先 |
D-100 |
長岡鉄男 |
ONTOMO MOOK
「バックロードホーン・スピーカーをつくる!」
設計:1995年(FF125K用) |
バックチャンバーレス
バックロードホーン |
小澤 隆久 |
無線と実験 2020年1月号、2月号
設計:2020年(FE126NV用) |
シュモクドリ |
炭山アキラ |
ONTOMO MOOK
「バックロードホーン・スピーカーをつくる!」
設計:2018年(FF126En用) |
長岡先生の「D-100」は、比較的長めの音道をもつ長岡先生らしいバックロードホーン。炭山先生の評では「BHらしい張り出しと切れ味も大いに感じさせる傑作エンクロージュア」とあり、FF125Kに近くなったキャラクターをもつFE126NV2で作ってみたい本格的BHの一つです。
小澤先生の「バックチャンバーレス バックロードホーン」は、テーパーのついた共鳴管型ともいえる形状をしています。極めて簡略化された構造になっており、初心者でも作りやすい作例です。
炭山先生の「シュモクドリ」は、同氏の大型リファレンスモデル「ハシビゴロウ」と共通の音道構成をもつ作品。鳥形バックロードホーンならではの広大な音場感の表現など、FE126NV2のポテンシャルを存分に引き出すことができるBHです。
他の12cm口径ユニットについて
12cm口径というサイズ自体がマイナージャンルなので、同口径でバックロードホーンに適当なユニットはFE126NV2のほか思い当たりません。
⑤ 16cm口径のおすすめのスピーカーユニット
Fostex FE168NS
激戦区の16cm口径では、「
FE168NS」を選びました。この口径になると、いずれのユニットを選んでもスーパーツイーターが欲しくなるので、やや本腰を入れての製作になるでしょう。
2021年に発売された限定ユニットの「FE168SS-HP」は、残念ながら在庫僅少状態。個人的には2005年発売の「FE168EΣ」もお気に入りなのですが、BHでの使いこなしが難しいという意見も散見します。そこで、
開放的で楽器的な鳴り方が魅力の「FE168NS」を紹介します。
FE168NSは、2018年に発売されてから非常に高い評価を得ています。伝統的なサブコーンを有する外見ですが、それゆえの素直な音質が魅力なようです。実際に比較試聴すると、ボーカルの温かみと描写力がほどよいバランスで実現できていることが分かります。
従来の16cm口径のバックロードホーン向けフルレンジは、より快活に鳴る10cmや20cm口径と比べて大人しい、どちらかといえばバスレフ向けとも言われることがありました。しかし、この「FE168NS」は、
大型のバックロードホーン箱をも存分に駆動する能力があると試聴を通して感じています。
FE168NSの取扱説明書に掲載されている図面のバックロードホーンは、空気室容量は約5.5L、スロート断面積は107cm2(振動板面積の約83%)、ホーン長は約1.9m、ホーン開口部面積は650cm2(スロートの約6.1倍)という設計です。空気室周りはオーソドックスな条件にしつつ、短かめのホーンを組み合わせることで、瞬発力のある低音表現を最小限のスペースで実現しています。
板厚は18mm
FE168NSの取扱説明書より
16cm口径は意外にも限定ユニット向けが多く、長岡鉄男先生の作例で人気のある
「D-168スーパーレア」「D-37」は、いずれもFE168NSには若干荷が重いかなと思う設計です。長岡先生は、「D-37」の解説のなかで『BH用としては168Σしかなかったので、(中略)ピンチヒッターとしてΣを使ってみたがベストではなかった。ΣはBHに使うにはやや非力で、中だるみのf特になってしまう。』と説明しています。FE168NSとFE168Σのどちらが強力かは議論の余地がありますが、どちらも限定ユニットと比べると穏やかな特性であるのは間違いありません。
過去の発表作品の中から、FE168NS向けのバックロードホーン箱として、以下の3作品を紹介します。
作品名 |
設計者(敬称略) |
図面参照先 |
D-164 |
長岡鉄男 |
ONTOMO MOOK
「バックロードホーン・スピーカーをつくる!」
設計:1984年(FP163, FE168Σ用) |
ASB168NS |
浅生昉 |
stereo 2019年4月号
設計:2019年(FE168NS用) |
グース |
炭山アキラ |
ONTOMO MOOK
「オーディオ超絶音源」
設計:2019年(FF168NS用)
※stereo 2019年2月号にも掲載 |
長岡先生の「D-164」は、スパイラルホーン方式のバックロードホーン。以下ではFE168NSとの組み合わせの作例が紹介されていますが、比較的好結果が得られているようです。
FE168NS を長岡式 D-164 で聴く | Speaker Factory | Xperience
浅生先生の「ASB168NS」は、オーソドックスな形状のBHで、外観では取説掲載のものとの違いは少ないように感じます。内部音道は、前後方向への折り返しを繰り返す構造になっており、比較的最低音域の量感を確保しやすい設計になっています。
炭山先生の「グース」は、鳥形バックロードホーンのなかでも小型の作品。10cmバックロードホーンと比べて容易に低音が出せる16cmのメリットを享受できるでしょう。
他の16cm口径ユニットについて
バックロードホーンに向く16cm口径は、FE168NS、FE168EΣが並行販売状態。そこに、より安価なFE166NV2が加わる三つ巴の状態です。
「
FE166NV2」は、上位ランクのユニットと比べるとやや品位が落ちるところがありますが、朗らかなな鳴りっぷりが特徴です。12cm口径のFE126NV2と比べるとスーパーツイーターも必要なのでかなりのコストアップになりますが、大型バックロードホーンの入門用にオススメできる製品になっています。
⑥ 20cm口径のおすすめのスピーカーユニット
FE206NV2
バックロードホーン向けのフルレンジの中で最大の口径になるのが20cmです。本体スピーカーのサイズも大きくなり、50kgを超える重量をもつ作例も増えていきます。
2023年3月に発売された限定ユニット「FE208SS-HP」は、なんと既に完売! FE208-Solからの乗り換えも多かった人気作だけに、僅か3ヵ月での完売が惜しまれます。盤石のロングセラーユニット「FE208EΣ」も良いのですが、ここで推したいのは普及型の「
FE206NV2」です。
ペアで4万円以下で買える価格でありながら、
能率96dB、Qts=0.26と、20cmバックロードホーン用として文句のない特性が与えられており、極めてコストパフォーマンスが高い製品に仕上がっています。
その音は、痛快で豪快なもの。16cm級とは次元の異なるエネルギーを放つ、20cm級ならではの魅力を持つものです。FENV系列のなかでは唯一の銅キャプ搭載モデルで、中高音域の低歪化にも余念がありません。試聴した時には、その卓越した性能に度肝の抜かされました。
FE126NV、FE166NV、FE206NVを聴いてきました。(試聴感想) - 趣味の小部屋 ( オーディフィル 公式ブログ) (goo.ne.jp)
FE206NV2の取扱説明書に掲載されている図面のバックロードホーンは、空気室容量は約12L、スロート断面積は140cm2(振動板面積の約68%)、ホーン長は約1.6m、ホーン開口部面積は約950cm2(スロートの約6.8倍)という設計です。かなりコンパクトに抑えことを重視した設計に思えます。
板厚:18mm
過去の発表作品の中から、FE206NV2向けのバックロードホーン箱として、以下の3作品を紹介します。
作品名 |
設計者(敬称略) |
図面参照先 |
D-57 |
長岡鉄男 |
ONTOMO MOOK
「バックロードホーン・スピーカーをつくる!」
設計:1995年(FE208S、FE208Σ用) |
FE206En用
バックロードホーン箱 |
浅生昉 |
ONTOMO MOOK
「バックロードホーン・スピーカーをつくる!」
設計:2018年(FE206En用) |
「D-57」は、長岡先生の中でも人気のある作例の一つです。FE208Σでも使えるようにと設計され、限定ユニット専用の「D-58ES」と比べても使いやすい作品になっています。21mm厚合板8枚を使う大作ですが、FE206NV2の能力を考えたらこれだけの箱を用意してあげたくなります。
「FE206En用バックロードホーン箱」は、Fostexの作例と奥行きは同じですが、高さは10cm小さく、横幅は3.6cm小さくなっています。ホーン開口面積をやや小さめにしており、最低域をしっかり再生することに重きを置いた設計です。
20cmバックロードホーン箱は、そのサイズから6畳以下の空間では余り出番がないもしれません。しかし、広い空間で圧倒的なサウンドを鳴らすバックロードホーンをお求めの際は、ぜひ挑戦してみて頂きたいです。
まとめ
5cmから20cmまで、様々な製品を紹介してきました。音の好みなど様々あると思いますが、箱の設計次第で何とでもなる(?)のがバックロードホーンの面白いところ。一つのユニットを手に入れたら、ぜひじっくりと箱の製作に取り組んで頂きたいと思います。
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バックロードホーンのすべて>1-08 おすすめのBH向けユニット6選(2023)