評論/情報 >
バックロードホーンのすべて>1-07 「スーパースワン」と鳥形バックロードホーン
前へ
次へ
1-07 「スーパースワン」と鳥形バックロードホーン
長岡鉄男氏の作例でも有名なのが「スーパースワン」です。独自の構造から根強いファンがいますが、試聴できる機会はそれほど多くありません。
そもそも、鳥形バックロードホーンとは何か。ここでは、各製作者の作例を先に紹介し、終盤では鳥形バックロードホーンのメリットとデメリットについて考えてみようと思います。
長岡鉄男氏の鳥形バックロード
「スワン」「スーパースワン」
特徴的な形状で有名なのが、長岡鉄男氏の「スーパースワン」です。その形状について、長岡氏は以下のように記しています。
”最初から変形BHを目指して設定したものではない。点音源の持つ情感をフルに生かすにはどうしたらよいか。10cmフルレンジを取り付けた小型キャビネットを宙づりにするのがいいのだが、小型キャビでは低音が出ないし、中高音も背圧の影響でDレンジ不足、音場再生に必要な細かい音が出にくくなる。では背圧をパイプで抜いたらどうなるか、と考えているうちにBHがぼんやり見えてきて、どうせなら白鳥のような形を”
(参考)書籍「バックロードホーン・スピーカーをつくる!」Stereo 編 ONTOMO MOOK P.55
つまり、
スワンの形状は点音源思想に基づくものなのです。長岡氏の作例には、他にも点音源を意図した小型スピーカーがありますが、スワンはその延長ということのようです。
最初に登場したのが
「D-101スワン(1986年)」でした。使用したユニットはFE106Σ。
その音を聴いたオーディオ評論家 立花氏が絶賛したこともあり、大人気になったといいます。掲載誌が早々に売り切れた後も記事のコピーを求める手紙が殺到したり、ユニットのFE106Σは半年以上が予約分のみで捌けてしまったというのですから、凄い人気だったことが伺われます。
(参考)我が家に自作スピーカーの「スワン」がやって来た!: Jun's my Taste (cocolog-nifty.com)
(参考)第240回/新世代FEシリーズの話をしていたら、また長岡鉄男氏の思い出に | MUSIC BIRD
「レア」「スーパーレア」
その16cm口径タイプとして作られたのが
「D-161レア」です。しかし、当時はFostexには適当なユニットはなく、テクニクス16F20を使用した作例になりました。
そして、1997年のFostex FE168SSの登場と共に設計されたのが
「D-168スーパーレア」です。家庭用として使いやすいサイズでありながら、長岡氏は「
サウンドとしてはスーパースワンよりモアに近く、パワフル、ダイナミックで壮絶、音場感もいい。」とコメントしています。
「スーパーレア」の作例
・
オーディオの部屋 (haitosu.org) ・
箱船航海日誌'03年08月
8cm口径タイプとしては、「D-83フラミンゴ(1997年)」「D-88スーパーフラミンゴ(1999年)」「D-108コブラ(1988年)」などを発表してます。
「モア」
最大サイズを誇るのは、20cm口径のFE208SS用に作られた「
D-150モア(1996年)」です。
構想は初代スワン発表の86年にはあったとしつつも、家庭用としてはまったく実用性がないサイズとして長い間実現しませんでした。
それから10年の歳月がたち、記念行事としてスワン祭(※)をやろうという計画がたち、セミナー会場で鳴らすことを前提に製作がスタートしました。
※「スワン祭」というのは、D-150初出のFMfan96年24号、書籍「バックロードホーン・スピーカーをつくる!」に掲載されていた長岡鉄男氏の文章より。実際にセミナーはあったようですが、「スワン祭」という名称だったかは不明。
その音について、長岡氏は「とにかく凄いの一言につきる音である。」と記しているのみに留めていますが、完成直後の試聴に同席していた炭山氏はこう記しています。
「
その場の全員が言葉を失い、音へ釘付けになった。そこでミュージシャンが演奏しているとしか思えない、異様なまでの生々しさと実体感、レンジも両端にどこまでも伸び、超ハイスピードの超低音が48畳・天井高5mの広大な方舟(長岡氏のシアタールーム)全体を揺さぶる。」
(引用)第216回/新任挨拶早々、スピーカー交換の話 | MUSIC BIRD
モアは巨大なスピーカーですが、使用しているという話もしばしば耳にします。その中では、ネック部分の長さを短くして、家庭用での試聴に適するようモデファイした作例もあります。
「モア」の作例
・
げんきまじんのじまん部屋 ・
モアとスワンとホームシアター stereo
炭山アキラ氏の鳥形バックロード
かつて長岡氏の担当編集者であった炭山氏は、現在もオーディオ各誌で鳥形バックロードホーンの作例を多数発表しています。個々の作例とその掲載誌は、下記webページを参照して頂ければ幸いです。
(
参考)鳥形バックロードホーン作例に学ぶ 思考のーと 010 カノン5Dの資料室 (fc2.com)
その中でも、代表作といえるのが上記写真に写っている「コサギ」「ハシビゴロウ」「ヒシクイ」の3作品でしょう。
「コサギ」
パイオニアの6cm口径ユニット「OMP-600」用に、2017年に発表された作例です。
設計図は書籍 「オーディオ超絶音源探検隊 バックロードホーン・スピーカーを相棒に」に掲載されているとともに、共立電子からキットが発売されているため、作りやすいモデルだと言えるでしょう。
小口径を生かした音場の広さが特徴で、炭山氏は「
驚くのは音場の広さ、深さ」「
声の美しさ、深みのある歌唱も逸品で、これはクラシック、ジャズ、ポップスを問わない。」とコメントをしています。
「ヒシクイ」
Fostexの10cm限定ユニット「FE108-Sol」用に、2016年に発表された作例です。
設計図は月刊ステレオ2016年2月号に掲載されているので、もし興味があれば探してみると良いでしょう。
その音は、オーディオみじんこ のブログに「
音もこれはまた鳥形の音場感の広がりが素晴らしく、開口部を前面に持ってきたことで、低域の遅れのようなものもほとんど感じることなく、ベースなどの図太い楽器のブルンブルン振える音色も薄っぺらくなることなくキチンと出てくるという、とても聴きどころのある素晴らしいバックロードホーン」と評されています。
「ハシビゴロウ」
Fostexの20cm限定ユニット「FE208-Sol」用に、2017年に発表された作例です。
2021年現在も炭山氏のリファレンススピーカーとして活躍しているモデルで、まさに最高傑作というべき作例でしょう。
設計図は月刊ステレオ2017年12月号のほか、書籍 「オーディオ超絶音源探検隊 バックロードホーン・スピーカーを相棒に」にも掲載されているため、入手は容易だといえるでしょう。
炭山氏の渾身の作であるハシビゴロウのサウンドは、炭山氏自身のコメントで「
どこまでも音離れよく、音量をいくら上げても破綻の素振りすら見せず、どんな複雑な音楽も平然と分解し、ハキハキと明朗闊達に歌う。」とあり、さらには「
あの「モア」をはるかに彷彿させる表現である」とも記しています。
(参考)第216回/新任挨拶早々、スピーカー交換の話 | MUSIC BIRD
(参考)炭山アキラ先生設計の鳥形バックロードホーン「ヒシクイ」降臨! | オーディオみじんこ (mijinko.jp)
(参考)書籍「バックロードホーン・スピーカーをつくる!」Stereo 編 ONTOMO MOOK
「チュウサギ」
炭山氏の代表作としてもう一つ加えるのならば、共立電子の10cmフルレンジを使った「チュウサギ」を入れたいところです!
他にも炭山氏は「カイツブリ(2009年、FE83En)」「オシドリ(2010年、FE103En-S)」「ヒクイドリ(2011年、FE163En-S)」「シギダチョウ(2011年、FE203En-S)」「シュモクドリ(2018年、FE126En)」など、多数の鳥形バックロードホーンを発表しています。
Aratani氏の鳥形バックロード
Aratani氏は、長年の自作スピーカーの経験を生かし、エクスペリエンス社としてオーダーメイドスピーカーの製作をしています。
モアに近い寸法のBHを10畳以下の空間で使うために、オリジナルの音道構造をゼロから設計。長岡氏や炭山氏サウンドより少し穏やかな音の方向性とのことです。
(参考)FE208NS 立方体ヘッドのバックロードホーン| Speaker Factory | Xperience
カノン5D の鳥形バックロード
私、カノン5Dも、鳥形バックロードホーンをいくつか作製しています。
その一つが、「S-019 ヘキサロード」です。
「S-019 ヘキサロード」
8cmフルレンジ「Fostex FE83E」を使用した鳥形のバックロードホーンで、自作スピーカーコンテストの出品作品として製作しました。スロート断面積をやや大きめに設計したため、低音を出すのに苦労しましたが、
鳥形ならではの音場感やヌケの良さは特筆すべきものがありました。
他には、12cm口径のFostex FE126Eや、10cm口径のFostex FE103-Solを使ったバックロードホーンもあります。
どれも
本体上部に開口部を設けたバックロードホーンなのですが、
低音量感を稼ぐのが難しかったと記憶しています。これらの経験から、自分の中では「バックロードホーンの開口部は床面付近にすべき」という経験則が出来上がっています。
「S-050」
変わり種としては、Right-EAR社の平面振動板ユニット「c0607」を搭載したバックロードホーン「S-050」があります。
低音も音圧も殆ど稼げないユニットでしたが、
テーパーをもつ3つ折りバックロードホーン(※ホーン開口部は後面下部)の効果により、平面振動板の素直な音はそのままに、アコースティック楽器の音域をカバーすることができました。
「S-076」
最新作は、Fostex FE168SS-HPを搭載した「S-076」です。
16cm口径ならではの余裕を生かしつつ、家庭用として使いやすく音の良いバックロードホーンを目指して設計。全体のフォルムとしては、ユニットの優れた素性を生かしやすい鳥形を選ぶことになりました。
2021年7月現在では試作品の状態ですが、重低音域までクセのない自然な質感を実現することができました。今後も、試作を重ねて完成度を高めていきたいと思っています。
鳥形(スワン形)バックロードの、メリットとデメリット
様々な鳥形のバックロードホーンを紹介してきましたが、そのメリット・デメリットはどんなものがあるかを考えてみます。
鳥形のメリット
一番のメリットは、その音場感の広さでしょう。
ボーカルはピンポイントに定位し、その前後左右に広大にひろがる緻密なサウンドステージは他のスピーカーでは味わえないものです。
単に広がり感がある、というだけであれば他のスピーカーでも実現できるのですが、広がった音場のなかにしっかりとした粒立ちのある音が広がるのは、鳥形バックロードホーンの独壇場だと感じています。
スピーカーユニット周囲のバッフル面積が極めて小さい鳥形では、ユニットから発した音がスムーズに後方に回り込むため、このような効果が得られるのではないかと考えています。
他には、ユニットからホーンへ流れ込む部分の
「スロート」の断面形状を正方形にしやすい、という点も挙げられます。
スロートの断面形状の扁平率が大きい(細長い長方形)と、気流抵抗が増して低音が出にくくなるという説があります。低音音圧と断面形状の信憑性は確かではありませんが、少なくとも鳥形では容易に正方形に近い形状にすることができます。
また、設計面でいえば、
スピーカーユニット後方の空間を広げやすいという点も挙げられます。
エンクロージュア内部において、スピーカーユニット後方の空間を広くとることは、奥行き感や繊細な音の表現において重要なのですが、通常のCW型バックロードでは狭くなりがちです。立方体に近い空気室(ユニットを装着する部分)をもつ鳥形では、同じ容量でも奥行きを確保しやすいのです。
また、奥行きが大きいことは、将来的にスピーカーユニットを交換してグレードアップする際に「ユニットの奥行き寸法が入らず断念した」ということを防ぐ効果もあるでしょう。
鳥形のデメリット
まず一番に挙げられるのが、設置面積の大きさでしょう。通常のバックロードホーンに比べて、鳥形では
設置面積が大きくなる傾向があります。
一般的な直方体の形状のバックロードホーンであれば、箱の上部まで音道を張り巡らすことができるのですが、スワン型は本体下部のみです。それゆえに、音道は横へ広がり、設置面積がどうしても大きくなってしまうのです。
あとは、見た目の問題でしょうか。これは個人差があるのですが、
どうしてもスワン型の外観が受け入れられないという人も一定数いらっしゃるようです。
逆に言えば、設置面積が確保でき、見た目も気にならないというのであれば、ぜひ鳥形に挑戦して頂きたいところです。
炭山氏の
鳥形バックロード「コサギ」「チュウサギ」は、共立電子からキットが販売されていますし、ヤフーオークションなどで中古の箱を手に入れることもできるでしょう。
まとめ
鳥形バックロードには様々な作例があることを感じていただけたかと思います。大まかな形状は決まっていますが、全体バランスを工夫することで雰囲気を変えてオリジナリティを出しています。
今後も新しいユニットが登場するたびに、新しい設計の鳥形バックロードホーンが登場することを楽しみにしたいですね!
前へ
次へ
評論/情報 >
バックロードホーンのすべて>1-07 「スーパースワン」と鳥形バックロードホーン