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23.バスレフポートの形状と音質


1. バスレフポートの基本

現代の多くのスピーカーは、バスレフ型と呼ばれる方式です。バスレフ型のスピーカーは、スピーカーの箱(エンクロージュア)に小さな穴を開け、そこに長さ3cm~20cm程度の管を差し込んだような構造をもちます。

         一般的なバスレフ型スピーカーの構造
       図1-1 一般的なバスレフ型スピーカーの構造

「バスレフポート」もしくは「バスレフダクト」と呼ばれるこの管は、低音を増幅させる役割をもっており下記計算式で求められる周波数f(Hz)の低音を増幅することができます。

      バスレフポートの共振周波数の計算式
        f =バスレフポートの共振周波数(Hz)
        S =バスレフポートの断面積 (cm2)
        V =箱の容量 (L)
        l =バスレフポートの長さ(cm)
        r =バスレフポートの半径(cm)

       式1-1 バスレフポートの共振周波数

以上がバスレフ型スピーカーの基本的なお話です。今回は、より応用的なところで「バスレフポートの形」について解説していきます。


2. フレア型に広がったバスレフポート

皆さんはバスレフポートの出口が広がった構造をもつスピーカーを見たことがありますでしょうか。

「バスレフポートの出口をフレア型にすると、バスレフポートからのノイズを低減する効果がある...」という説明がしばしばなされていると思います。何となく感覚的には分かる気もしますが、なぜそういうことになるのか次の章から詳細に説明していこうと思います。

    オーディフィルSW-1のバスレフポート
    図2-1 オーディフィル「SW-1」のバスレフポート
       (バスレフポートの先端がフレア型に広がっている)



3. フレア型のバスレフポートのはじまり

バスレフポートから出るノイズについて最初にまとめたのは、英BBCの技術者H.D.Harwood氏です。

1972年に公開された「低音再生における歪」についてまとめた論文の一章で、バスレフポートから出るノイズついて解説しており、バスレフポートの中を通る空気の流速が約10m/sを超えると乱流が発生してノイズになると言及しています。(3-1
また、図3-1で示されたグラフのように、様々な直径のバスレフポートをもつスピーカーが、60m3(約16畳)の空間においてどの程度の音量での再生が可能なのかについての議論をしています。(3-1
       バスレフポートから非線形歪が生じる再生音圧
       図3-1 60m3(約16畳)の空間において、
          バスレフポートから非線形歪が生じる再生音圧 (3-1
※非線形歪が生じる音圧については同文献の中でも多角的な議論がされており、上図のみで一義的に解釈できるものではない。


以上の1972年のHarwood氏の研究では、開口部にフレア形状をもたない、ストレートな形のバスレフポートが用いられました。

そのバスレフポートに「丸み」をつけることで、再生音の歪を低減できるとしたのは、1978年のオランダのNovanexAutomation(以下、ノバネックス社) のRobert R. Laupman氏です。

  丸みのあるバスレフポート
       図3-2 丸みのあるバスレフポート (3-2
           米国特許4,213,515の図面に、説明を追記

ノバネックス社(当時はNederlandse EXtrusie Maatschappij)は、 1960年代からPVCフローリングタイル生産を主力事業にしていましたが、1973年の石油危機を発端にしてその生産を停止せざるを得ないという窮地に立たされます。
当時のCEOであったLaupman氏は新規事業を探す中で、息子がエレキギターを弾いていたことをきっかけにギターアンプ製造を開始。このバスレフポートの特許を含む100以上の特許を出願し、会社を立て直したといいます。(3-3

この形状のスピーカーは、当時の野外イベントやディスコで重宝されました。現在NOVANEXブランドで販売されている「PL-200」というスピーカーに、その面影をみることができます。

      NOVANEX PL-200 
  図3-3 NOVANEX PL-200 (3-4
     二つのウーハーの間にあるバスレフポートが、ラウンド形状になっている


余談ですが、このノバネックスオートメーション社には「ラウドネス・スイッチ」というもう一つ大きな発明があります。このことは2024年現在の同社のwebページにも掲載されており、そのブランドの歴史を垣間見ることができます。


参考文献
[3-1] H.D.Harwood, "Loudspeaker Distortion with Low-Frequency Signals." J. Audio Eng. Soc., vol. 20, pp. 718-728 (1972 Nov.).
[3-2] R. Laupman, "Speaker"System," U.S. Patent 4,213515 (filed 1978 Sept. 12; awarded 1980 July 22).
[3-3] https://www.novanex.nl/about-us.html
[3-4] https://www.novanex.nl/audio-equipment/pa-systems?product_id=160



4. バスレフポート端部における簡易的なフレア形状の効果

バスレフポートから低音が再生されるとき、その管の中を空気が激しく出入りします。空気を流体として捉えると、流体力学でいわれる管路損失の「入口損失」と「出口損失」を考えることができす。

              バスレフポートの管路損失
    図4-1 バスレフポートに空気が出入りする際、両側で管路損失が発生する

「入口損失」は、広い空間から狭いポート内に空気が入るときの抵抗のこと。「出口損失」はその反対で、狭いポート内から広い空間に出るときの抵抗です。スピーカーから再生される音は交流信号であるため、バスレフポートに空気は"出入り"するので、入口損失と出口損失の双方が存在します。


まず、入口損失について考えます。以下の図は、直径dの円筒形状のバスレフポートの端に①直線的(深さL、角度θ)、②曲線的(半径r)なフレアをそれぞれ設けた場合における、入口損失係数Kを示したものです。

    バスレフポートの入口損失
     図4-2 バスレフポート端面のフレア形状と入口損失K (4-1

このグラフの左側、つまり横軸が0の状態は、フレア(※ここではバスレフポート端面の小さな広がりのこと)が全くない、端面が尖った状態(Sharp-edged)のポートを表します。そこから直線的、もしくは曲線的なフレアを設けた場合、L/dもしくはr/dで表されるフレア形状が大きくなるに従って右側に特性が変化していきます。

特に、曲線的なフレア形状とした場合は、その半径rがポートの直径dの0.2倍(つまり r/d=0.2)になったときに入口損失係数Kが約0.05まで低下することが注目できます。

フレア形状をもたないストレートポートは、入口損失係数Kが0.5(50%の損失!)なので、ポート直径の僅か0.2倍のrをもつ曲線をポート端面に設けるだけで、入口損失Kが0.05まで低下するという大きな効果が得られることが分かります。

つまり、直径dが50mmのバスレフポートであれば、半径r=10mmのフレア形状を端部の設けると効果的ということです。


一方で、出口損失は、ポート終端ギリギリで流れが分離する、つまりポートの端が鋭利であるほうが抵抗が低くなります。ただし、入口損失の変化と比べると、その影響は小さなものです。


参考文献
[4-1] F. M. White, Fluid Mechanics, 3rd ed.(McGraw Hill, NY, 1994).



5. バスレフポート全体の形状について

先の項目では、バスレフポートの端だけに小さなフレア形状をつけた効果を示しました。それでは、バスレフポート全体が大きなラウンド形状をもつ場合はどうでしょうか。

様々な形状が考えられますが、2002年に JBL Professional の Alex Salvatti氏らは、ポートの長さLに対して半径rをもつポート形状を NFR=L/2rとして分類し、下記の①~⑥のバスレフポートの特性を検証しました。(5-1

NFRで定義されたバスレフポート形状
           図5-1 Salvattiらが検討したポート形状の一例


         Salvattiらが検討したポート形状

       図5-1 Salvattiらが検討したポート形状


この実験では下図のように、111Lの密閉型エンクロージュアに入った46cm口径ウーハーの前に、201Lのポートをもつエンクロージュアを用意し、そこへ検討対象となる①~⑥のバスレフポートを取り付けました。測定対象であるポートに対して、スピーカーユニットは十分に歪が抑えられており、ポートの性能を十分に評価できる測定系になっています。
なお、①のストレート形状のバスレフポートであっても、ポート直径の0.2倍にあたるr=12mmのフレアをポート両端に付けるとともに、ポート内側端面には直径140mmのフランジを設けています。

      ポート特性評価のための装置
       図5-2  ポート特性評価のための装置 (5-1

スピーカーに入力する電圧を1.25V(約1w)から40V(約200w)まで6dBおきに上げていき、その時の周波数特性を評価しました。得られた測定結果は、下図のように入力電圧に応じて音圧が揃うように調整され、バスレフポートの特性変化を見やすくしています。

  測定結果グラフの見方
       図5-3 測定結果グラフの見方


参考文献
[5-1] A. Salvatti, A. Devantier, D. J. Button,“Maximizing Performance from Loudspeaker Ports,”presented at the 105 th Convention of the Audio Engineering Society, J. Audio Eng. Soc. (Abstracts), vol. 50, p. 19 (2002 Jan./Feb.), preprint 4855



6. バスレフポート全体の形状について(周波数シフト)

以上の条件で測定を行ったとき、ラウンドしたポート形状はどのような特性を示したでしょうか?

まず、NFR=0のストレートポートと比べて、NFR=1のようなラウンド形状のポートは、バスレフ共振周波数が高くなりました。
これは感覚的にも分かると思いますが、ラウンドしたポートの中の最も狭い部分の面積をストレートポートの面積と合わせたため、ラウンド形状にしたポートは実質的な断面積が増加しました。本webページの冒頭で述べたバスレフ共振周波数の公式(式1-1)にもあるように、ポート断面積S が増加すれば共振周波数 f は高くなります。

   ポート形状による共振周波数の変化
         図6-1 ポート形状による共振周波数の変化 (5-1
            NFR=1の形状は、共振周波数がシフトする。

この変化量は、下記グラフで表されるような関係がありました。NFR=1のポート形状の場合、その実効断面積はストレートポート(NFR=0)の約1.6倍になります。

   フレア形状に対する、実効ポート面積の変化
          図6-2 フレア形状(NFR)に対する、実効ポート面積の変化 (5-1


参考文献
[5-1] A. Salvatti, A. Devantier, D. J. Button,“Maximizing Performance from Loudspeaker Ports,”presented at the 105 th Convention of the Audio Engineering Society, J. Audio Eng. Soc. (Abstracts), vol. 50, p. 19 (2002 Jan./Feb.), preprint 4855


7. バスレフポート全体の形状について(音圧)

次に、ポートからの音圧に着目します。ストレートポート(①NFR=0)と、ラウンドポート(⑥NFR=1)を比較すると、後者の方が音圧が高いことが分かります。

ポート形状による出力音圧の変化
  図7-1 ポート形状の違いによる、出力音圧の変化 (5-1


ストレートポートの方も入口抵抗を減らせるように端部にrを付けていたのですが、それよりもNFR=1のラウンドポートの方が高効率であるという結果でした。

これは、ラウンドが大きなポート(図7-2 左)の方がポート内部のより深い部分で空気の渦が発生し、それがベアリングのように作用して空気抵抗を軽減したためと考えられています。1998年のN. B. Roozenらのシミュレーション結果(7-1から、ラウンドが大きなポートとそうでないポートにおける空気の渦発生の様子を図7-2に示します。

  異なるポート形状における渦発生の様子
  図7-2 異なるポート形状における空気の渦発生の様子。Roozenらのシミュレーション結果 (7-1より


様々なラウンド形状におけるポートからの放射音圧を、図7-3に示します。入力電圧(再生音量)の大小を横軸に、得られたポートからの音圧を縦軸にプロットしています。

 様々なポート形状における、出力音圧と入力の関係
        図7-3 様々なポート形状(NFR)における、入力電圧に対するポート音圧の関係 (5-1

まず、■印で示されたストレートポート(①NFR=0)は、殆どの音量域で音圧が低く、効率が良いポートとは言えません。今回評価したストレートポートは、ポート端部にr加工が施されており入口損失の対策はなされていましたが、全体をラウンド形状にしたポートと比べると見劣りする性能だと言わざるを得ません。

〇印で示されている大きなラウンドをもつポート(⑥NFR=1)は、ストレートポートと比べて小音量時で約3dBほど効率が上がっています。また、そこから5dB程度、入力電圧が上がった(左から2番目のプロット)場合でも、音圧の低下は最小限に抑えられています。

しかし、グラフ右端の大音量時(入力電圧40V, 約200W相当)においては、NFR=1のポートは最も低い音圧になっており、つまりポート効率が低下していることが読み取れます。その一方で、全ての周波数領域で万遍なく高い音圧が出ていた(効率が良かった)のは、◇印で示されている④NFR=0.5 (1/2)のポートでした。

これは、⑥NFR=1のようにポート内部のラウンドが大きすぎると、ポート内部に乱流が満たされるのが早くなり、極限の大音量域では不利になったためと考えられています。各音量域で最も良好な結果が得られたのは、適度な曲率をもつ④NFR=1/2のポートでした。


参考文献
[5-1] A. Salvatti, A. Devantier, D. J. Button,“Maximizing Performance from Loudspeaker Ports,”presented at the 105 th Convention of the Audio Engineering Society, J. Audio Eng. Soc. (Abstracts), vol. 50, p. 19 (2002 Jan./Feb.), preprint 4855
[7-1] N. B. Roozen, J. E. M. Vael, and J. A. M. Nieuwendijk, "Reduction of Bass-Reflrex Port Nonline-arities by Optimizing the Port Geometry," presented at the 104th Convention of the Audio Engineering Society, J.Audio Eng. Soc. (Abstracts), vol. 46, p. 576(1998 June), preprint 4661



8. バスレフポート全体の形状について(歪み)

次に、バスレフポートから出てくる音の歪みについて考えてみます。Salvattiらは、先の①~⑥のバスレフポートを用いて、スピーカーから1mの距離での音を評価し、最も良好なポートとそうでないポートで歪成分に大きな差があることを示しました。(5-1

 バスレフポートの周波数特性の比較
     図8-1 最良のポートとそうでないポートの周波数特性の比較 (5-1

図8-1で、青丸と赤丸をつけたのが歪成分です。青丸は偶数高調波、赤丸は奇数高調波として別々に捉えることができ、とくにバスレフポートの形状で変化が出やすいのは奇数高調波の成分になります。

この奇数高調波歪の大小を、音量を横軸にとりプロットしたのが図8-2のグラフです。ここでは、90dB未満の小音量域から、105dBを超える大音量域までの、様々な音量域における各ポート形状の歪を比較しています。(5-1

   基音の音圧に対する歪率の変化
       図8-2 各ポート形状(NFR)における、基音の音圧に対する歪率の変化 (5-1

このグラフでの着目すべき点は、以下の3つです。

・最も歪が少なかったのは、④NFR=1/2のポート形状
 音圧評価で最も良好な結果だった④NFR=1/2(×印と太線)は、全ての音圧領域で歪みが低く良好な結果を示しました。

・ポート内側にフランジを設けることで特性が改善する
 同じ①NFR=0のストレートポートであっても、ポート内側に直径140mmのフランジを加えたポート(◆印)は、フランジのないもの( - 印)と比べて歪みがより小さく抑えられました。外側(バッフル面)と内側のポート端面を対称的な構造にすることは、バスレフポートのダーオード的な単方向の整流を無くし、よりスムーズな空気の出入りを生み出します。

・小音量域でもっとも低歪なのはNFR=1
 90dB前後での小音量域でもっとも歪みが小さかったのは、⑥NFR=1(〇印)のポート形状でした。ただし、後の聴感をベースとした研究では、NFR=1のような過度なラウンドを持つポートより、NFR=1/2のような適度なラウンドをもつポートが好ましいという結果が得られている(9-1, 9-2ため、①~⑥のなかで最も優れたポート形状は、④NFR=1/2だといえます。

参考文献
[5-1] A. Salvatti, A. Devantier, D. J. Button,“Maximizing Performance from Loudspeaker Ports,”presented at the 105 th Convention of the Audio Engineering Society, J. Audio Eng. Soc. (Abstracts), vol. 50, p. 19 (2002 Jan./Feb.), preprint 4855
[9-1] Rapoport, Z. and Devantier, A., “Analysis and Modeling of the Bi-Directional Fluid Flow in Loudspeaker Ports,” in Audio Engineering Society Convention 117, San Francisco, (2004)
[9-2] A. Bezzola, "Optimal Bass Reflex Loudspeaker Port Design," the 2019 COMSOL Conference in Boston, (2019)


9. 多項式を使ったポート形状の最適化

ここまでは、シンプルなラウンド形状を持つポートについてお話してきました。では、より理想的なポート形状はあるのでしょうか?

Salvattiらは、以下のような多項式で表されるポートを検討しました。(5-1ポートの長さは全て120mmで、図9-1のグラフにはその半分だけが写っています。全てのポートは、端面に半径15mmのフレアが付けられており、ダクト共振周波数が33Hzに揃うようにポートの最小半径を若干変えています。

  多項式ポートの形状(グラフ)

  多項式ポートの形状(表)
   ※「出口部分の最大直径mm」には、端部の15mmのフレアは含まない

   図9-1 多項式ポートの形状 (5-1


まず、広がりが小さいポート形状「s」から「c」までのTHD(全高調波歪)を比較します。端部のフレア形状が全くないストレートなポート「s」が一番悪い特性ですが、ポート「sr」のように両端に15mm(直径の0.2倍)のフレアを設けるだけで大きな改善がみられます。80dB付近の小音量域においてもその違いは確認でき、小音量であってもダクト形状の影響は無視できないものであることが分かります。
 ポート出力のTHD1
  図9-2 ストレートポート(s)、ラウンドを持つストレートポート(sr)、多項式ポート(a~c)の比較 (5-1

次に、広がりの大きなポート「c」~「f」のTHDを比較します。ほぼ特性は同等ですが、赤丸で示した最大音量域に注目すると広がりが最も大きなポート「f」は若干見劣りする結果になっており、ポート「c」もしくは「d」のような程よい広がりを持つポートが最適という結果になっています。

  ポート出力のTHD2
         図9-3 異なる広がりをもつラウンドポートの比較 (5-1

良好な特性を示したポート「c」と「d」(端部の直径はそれぞれ103と110mm)に、15mmのフランジを装着した「cf」「df」は、より偶数高調波歪が低下する(図9-5)ことが確認されています。これは、ポートの内側と外側の対称性が改善されたことによる効果と考えられます。
     ポート内側端部へのフランジ装着イメージ
      図9-4 内側端部へのフランジ装着のイメージ

フランジの有無による歪
          図9-5 フランジの有無における歪みの差 (5-1

Salvattiらは、このポート「c」と「d」のどちらが良いかについて結論づけませんでしたが、後の2004年のRapoportらの研究(9-1や、2019年のA. Bezzolaの研究(9-2で、聴感評価とシミュレーションの双方からポート「d」が最も優れたポート形状であるという結論が導かれています。

ポート「d」は適度なラウンド形状をもっており、ポート端部の角度が30°であることで乱流の発生が最小限に抑えられた(図9-6)ことや、ポートから放出される空気速度が均一になった(図9-8)ことが、好ましい結果につながったとされています。

  LES乱流モデルによるポート入口の流体の流れ
    図9-6 LES乱流モデルによるポート入口の流体の流れ (9-1

    ポートの開き角度
     図9-7 NFR=1/2 と ポート「d」。双方とも開口部付近が30°の開き角度になっている。


    各ポート形状におけるポート出口の空気速度
       図9-8 各ポート形状におけるポート出口の空気速度 (9-2

参考文献
[5-1] A. Salvatti, A. Devantier, D. J. Button,“Maximizing Performance from Loudspeaker Ports,”presented at the 105 th Convention of the Audio Engineering Society, J. Audio Eng. Soc. (Abstracts), vol. 50, p. 19 (2002 Jan./Feb.), preprint 4855
[9-1] Rapoport, Z. and Devantier, A., “Analysis and Modeling of the Bi-Directional Fluid Flow in Loudspeaker Ports,” in Audio Engineering Society Convention 117, San Francisco, (2004)
[9-2] A. Bezzola, "Optimal Bass Reflex Loudspeaker Port Design," the 2019 COMSOL Conference in Boston, (2019)


10. まとめ ~好ましいポート形状とは~

ここまで様々なポート形状を紹介してきました。まず、最も避けなければならないのはバッフル面に塩ビ管を刺しただけの構造です。鋭い端面が大きな入口損失や乱流を生み出し、音質だけでなくバスレフポート動作の効率も不利になってしまいます。
  ストレート形状のバスレフポートの音質対策
       図10-1 ストレート形状のバスレフポートにおける音質対策

一般的な木工作業のなかでできる工夫としては、ポート端面にポート直径の0.2倍にあたるr加工(フレア)を設けて入口抵抗を減らし、さらにポート内側端面にもフランジを設けてポート形状の対称性を確保することが挙げられ、ポート出力特性の大幅な改善が可能です。なお、フランジの外径は、ポート直径の2倍前後に設定されることが多いようです。


さらに、3dプリンター等を持っている方は、ポート「d」として多くの文献で高い評価がなされている形状にチャレンジしてみて頂きたいと思います。図10-2に、ポート「d」全体の形状を示します。

   ポートdの形状
     図10-2 ポート「d」の形状

実際の用途では、上図の形状を相似形で拡大縮小することで、バスレフポートの共振周波数を変えることができます。ポートの直径と長さをそれぞれ2倍に大きくすれば、共振周波数は約1.4倍に高くなります。

注意すべきポイントは、ポートの縦横比を変えてはいけないということです。たとえば、ポートの縦幅を著しく圧縮して細長いポートを作ると、ストレートポートに近い形状になってしまいます。あくまでも、乱流の影響を抑えることができる「ポート末端近傍における30°の広がり角度」は維持されるべきです。そのため、ポート共振周波数を下げるために細長いポート形状が必要な場合は、ポートを中心で2分割し、その間に塩ビ管などのストレートな管を挿入するのが好ましいと考えます。


バスレフ型のスピーカー製作では細かく議論されることのないポート形状でしたが、今回紹介したように様々な研究がなされてきました。未対策のストレートが悪、という訳ではなく、内側フランジの追加や小さなr加工をすることで、まだまだ伸びしろがあるという前向きな捉え方をして頂ければと思っています。



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