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29. DIY Loudspeaker Builder's Meeting 2024試聴記

 DIY Loudspeaker Builder's Meeting 2024

 2024年9月22日に、大阪のYOSHUホールで開催されたDIY Loudspeaker Builder's Meeting 2024に行ってきました。「2way以上のマルチウェイであること」という枠で集まった自作スピーカーの発表会です。

 自作スピーカーの集まりは東京や広島で開催されていることを知っていますが、こちらは大阪での開催。日本橋からもギリギリ歩いて行ける距離感ということもあり、デジット店舗から道頓堀でランチを楽しみつつ、会場に向かいました。



会場の様子

 DIY Loudspeaker Builder's Meeting 2024

 会場は2部屋に分かれており、受付と物販のスペースと、50名近く入るであろう試聴空間という広々としたもの。私が到着した時には既に30名ほどが来ており、大賑わいでした。
 再生系は、PCからDAコンバーター、アンプという構成。これらも自作品で、拘りを感じますね。(アンプの筐体が、とある高級市販品という遊び心もGood) スピーカーの前には吸音用のクッションがひかれ、良い音を届けようという意気込みを感じました!

 ここでは、個々の作品の音をレビューするだけでなく、使われたスピーカーユニットの音についても触れていこうと思います。どのユニットも使いこなし次第で出音は変わってくるので、1作品からその音色を評価するのは難しいところですが、スピーカーユニットの音質評というのは滅多にないことと、今回は十分にスピーカーユニットを使いこなした力作が集まったという事もあり、私が感じた印象を書くことにしました。


デイトンオーディオのユニットを使った小型2way

 Dayton Audio SIG120-4と、Dayton Audio ND25FW-4の2wayスピーカー

 最初の作品は、本イベントの発起人でもあり、雑誌「無線と実験」に連載をしている鈴木さんが作製した「デイトンオーディオのユニットを使った小型2way」です。ツイーターにDayton Audio ND25FW-4、ウーハーにDayton Audio SIG120-4が使われているコンパクトなスピーカーです。本作の製作は「無線と実験」にも連載されており、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

 音を聴くと、明晰さのある解像力と、癖のない音という第一印象。小型ながら厚みがあり、しっかりとしたサウンドバランスを聴くことができました。

 ウーハーのDayton Audio SIG120-4は、デイトンオーディオ社が新しく安価なウーハーとして発売した製品。本作例ではシンプルなネットワークによる使いこなしで素直な音が得られており、使いやすさを感じました。
 ツイーターのDayton Audio ND25FW-4は、ウェーブガイドが付きの非常に安価なツイーターです。高音の表現力では値段の制約を感じるところもありましたが、透明度は高く、ノッチフィルター一発でここまでクセのない音が出るのかと驚かされました。



小型ウェーブガイドスピーカー

 SB Acoustics SB26STWGC-4と、Peerless HDS-P830870の2way

 続いてはOKさんの作品「小型ウェーブガイドスピーカー」です。ツイーターは、SB Acoustics SB26STWGC-4、ウーハーはPeerless HDS-P830870。側面片側には、パッシブラジエーターのDS175-PRが装着されています。

 楽曲を再生すると、深みがあり伸びやかな音で、美しい楽器の音色を聴くことができました。また、全域に渡って音離れが良く、良い意味でフルレンジを彷彿させる鮮度感のある音も好印象でした。

 SB Acoustics SB26STWGC-4は初めて聴いたのですが、音色の表現、つまり倍音の描き方が良好で、いつか使ってみたいと思わせる音でした。以前に、同社のSB26STAC-C000-4 を使ったときは余りパッとした音質が得られなかった(単に使いこなし不足の疑惑あり…)のですが、この作品を聴いて改めてチャレンジしたい思いが湧いてきましたね。ウェーブガイド部分がしっかりとした金属で作られているのも音に良さそうです。

 Peerless HDS-P830870は、TSパラメーターを見る限りでは何の変哲もないユニットですが、コシがありハリのある低音は多くのオーディオファイルに歓迎されると思います。本作では、ノッチフィルターでバッフルステップの補正をして、ウーハーの直列コイル容量を小さくする工夫がされており、そのためか中音域の音離れがよく、解像度の高い低域~中域を聴くことができました。



夏風琴鳥

 SEAS 27TBCD/GB-DXTと、Wavecor WF152BD05の2wayスピーカー

 みやさんの作品「夏風琴鳥」は、以前アニソンオーディオフェス2023で聴いたことがあり、今回は2回目の試聴です。中身はブラッシュアップされており、その詳細はブログ「工作とかオーディオとか」につづられています。

 アニオフェスでのモニターライクなサウンドから、より開放感のあるサウンドへ進化しており、抜群の広がり感のある音に、ライヴ感のあるウーハーの音が心地よさを生み出していました。ドラクエⅢの軽やかに舞うトランペットは逸品です!また、(左スピーカーの直前という試聴位置にもかかわらず)音が左後方まで回り込む様子が確認できました。

 ツイーターのSEAS 27TBCD/GB-DXTは、指向性の制御がされており、また雑味のないクオリティで安心して使えるものだと感じました。振動板前面にネットが標準で装着されているので、ご家庭にお子様がいらっしゃる方には特におすすめです。若干シャンシャンという金属っぽさが聴こえたような気がしましたが、振動板共振によるブレークアップは25kHz付近で可聴帯域外にあるので、真偽のほどは確かではありません。

 ウーハーのWavecor WF152BD05は、本作では小容量のバスレフ箱に収まっていたことも相まって、質感の高い低音を聴くことができました。生演奏のPAスピーカーで聴くような開放感のある質感があり、重苦しくなりがちなベースギターを気持ちよく聴くことができる魅力を感じました。



無垢レゾ零号

 Scanspeak D2608/913000と15W/8434G00の共鳴管2way

 MUKUさんの作品「無垢レゾ零号」は、焼き桐材とハードメープル材の無垢板が特徴の共鳴管型。内部には1.2mと1.5m(?)の2本の共鳴管が並列でつながっており、共振を分散させる狙いがあります。

 無垢材らしい一音一音の美しい描写があり、ボーカルを心地よく聴くことができました。細かい音の美しさは無垢材の良さが際立ち、小鳥の鳴き声も聴き惚れる臨場感がありました。共鳴管による低音は十分な量感が感じられ、フロア型ならではの魅力ある作品になっていました。

 
  音響管の内面には、園芸用の麻布が貼られていました。

 ツイーターのScanSpeak Discovery D2608/91300は、振動板の軽さを感じる立ち上がりの良い音が魅力的。ソフトドームツイーターは、滑らかな質感で聴かせるタイプと、パリッとした溌溂とした音で聴かせるタイプがありますが、このD2608/91300は後者ですね。

 ウーハーは、Scanspeak Discovery 15W/8434G00。共鳴管をしっかり駆動しており、力感十分な低音です。ピアノの立ち上がりがガツンとくるところでも、このユニットの優秀さを感じることができました。ScanSpeakは甘美さのある音色という印象もありますが。このDiscoveryの組み合わせはそうした着色は少なく(むしろ、あっさり基調で)使いやすいドライバーだといえそうです。




ESL165

 自作の静電型ユニットを搭載するスピーカーシステム

 たいぞうさんの作品「ESL165」。自作の静電型ユニットを搭載するスピーカーシステムで、一つの大きな振動板に見える部分は5つに分割駆動され、指向性を改善しているとのこと。

 静電型というとサラリとした質感のイメージがありましたが、本作は力強さとヌケの良さが前面にくる音でした。出音に滲みが無く、ボーカルは濃く明瞭に描かれます。

 低音は、屋外で聴くマーチングバンドの生演奏に近いような、重さを感じさせない心地よいものでした。巧みな設計の成果もあり、100Hz付近もしっかりとした厚みを感じる音になっていました。

 
     複数のトランスが入っている駆動回路部分


 このドライバーの製作では、書籍「Elektrostatische luidsprekers: zelf bouwen of zelf kopen E. Fikier "静電型スピーカー 自分で作るか自分で買うか"」、ブログ「Jazzman's DIY Electrostatic Loudspeaker Page」を参考にしたとのこと。発表作は、最大音圧(=振幅)を重視した設計になっており、振動板の共振周波数を下げ25Hzまで再生できるドライバーも製作できるとのこと!



Open B

 ナショナルの名機ゲンコツを使ったスピーカー

 ddさんの作品「Open B」は、収集したビンテージユニットを活用したいという思いから生まれたスピーカー。アクリル板のバッフル板を前側に配し、裏側はアクリルドーム部材の中央を大きくくりぬいた構造になっています。

 最初は、ナショナルの名機ゲンコツで試聴。いつまでも聴いていたくなる心地よいボーカルで、名機と呼ばれるフルレンジの魅力がしっかりと引き出されていると感じました。ゲンコツを聴くのは過去にも何回かありましたが、ボーカルや小編成の楽曲を非常にウェルバランスに再生できる魅力のあるユニットだと認識しています。古典的なイメージにとらわれず、より多くの方に聴いて頂ききたいものです。

 中盤で、ドイツTelfunkenのドライバーに交換。こちらはザ・ビンテージと言いたくなるようなハリとコクのある音を楽しむことができました。それぞれのビンテージユニットの個性をしっかりと発揮できる、見た目も美しいスピーカーですね。

 ナショナルの名機ゲンコツを使ったスピーカー
   本体側面


 スピーカーの設計というと、つい内部構造や特性を主に考えてしまいますが、本作は「ヴィンテージユニットを冬眠させない」という課題に対する答えとしての設計(デザイン)であることに関心しました。




Klangfilm Homage

 Kalangfilm Eurodyn(クラングフィルム オロダイン)の現代復刻版スピーカー

 てつさんの作品「Klangfilm Homage」は、Kalangfilm Eurodyn(クラングフィルム オロダイン)の現代復刻版として作製されました。古典的なユニットを使いつつ、軸上・軸外特性を考慮した設計がなされています。

 中高音を担当するドライバーはRMS5531。ウーハーはRFT L1635という組み合わせ。ホーンのエネルギーとウーハーの下支えが良いバランスに調和しており、決して乱雑にならない安定感のある音を聴くことができました。

 様々な音楽を破綻なく聴かせるのは、現代的に整えられた特性の賜物ですね。オーケストラの低弦の唸りや、肌で感じるドラムの低音では、101dB/2.8V/1mというという高能率なウーハーが炸裂。よくあるビンテージスピーカーの音とはちょっと違う、使いこなしの技を感じることができました。



おわりに

 初めてのイベントとのことでしたが、しっかりとした進行のもと開催され、とても楽しく充実した時間を過ごすことができました。また機会があれば、ぜひ参加したいです!




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