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28. 2024東京インターナショナルオーディオショウ試聴記

2024東京インターナショナルオーディオショウ

 7月26日~28日の日程で、2024東京インターナショナルオーディオショウ(TIAS)が開催されました。海外のハイエンドオーディオ機器が集まる催しで、「OTOTEN」に並ぶ一大オーディオイベントになっています。

 ここでは、聴いてきた注目スピーカーの紹介をします。中には1憶円を超える価格のものもあり、必ずしも全てが容易に購入できるものではありません。しかし、そのブランドの目指す方向性、コンセプトを色濃く感じることができる製品ばかりであり、フラッグシップモデルの音はスピーカーを選ぶ際の参考になると考えます。それぞれの製品が生まれた背景や、2024現在の市場における意義にも言及しつつ、その音を紹介していこうと思います。


TAD CE1TX

TAD CE1TX

 TADのエボリューションラインは、TADの原音再生思想をより現実的な価格で実現したものです。この「CE1TX」はペア319万円という価格ではありますが、そのサイズと音の魅力もあって、旧モデルの「CE1」、弟モデルの「ME1」も併せて人気を博しています。

 毎年混雑しているTADブースなので、朝一に訪問しました。「CE1TX」は、TADらしい実直なサウンドで、しっかりと音像と空間を描いている様子が印象的でした。「ME1」のようなチャーミングさは控えめで、上位機種として練り上げられた音に魅力があります。旧モデルの「CE1」を聴いたのはかなり前になりますが、TXにモデルチェンジしてより濃厚な音が描けるようになったように感じます。



ソナスファベール Guarneri G5

ソナスファベール Guarneri G5

 同社のフラッグシップモデル「Sprema」の試聴整理券をもらうついでに、聴けたのが「Guarneri(ガルネリ) G5」。1993年に発売された初代「ガルネリオマージュ」から30年近くの時を経て、第五世代の「G5」の名称が付いています。

ソナスファベール Guarneri G5

 小型スピーカーとして高い人気を誇る同社のガルネリシリーズですが、G5は初めて聴くことができました。大編成のオーケストラの低弦がしっかりとした存在感で鳴っており、ブックシェルフの枠にとどまらない魅力があると感じました。これだけ広い空間、なおかつ壁から離れたフリースタンディング設置で十分な低音(100~200Hz)量感を表現できるのは、ブックシェルフスピーカーとして驚異的です。
 もちろん、フロア型の上位機種と比べたら音圧や低域伸長に限界はありますが、狭い部屋で使う場合には、この上品なサイズが一番の魅力になるでしょう。



モニターオーディオ HYPHN

モニターオーディオ HYPHN

 モニターオーディオの最上級機として発表されたのが、この「HYPHN」。スピーカーとは思えない外見と、1,485万円というお値段。同社の他のラインナップにはPlatiumシリーズという高級機がありますが、その遥かに上の価格になる「HYPHN」ちょっと別枠という感じです。

 実は、2023年には「Concept50」というそっくりな外観を持つスピーカーがありましたが、この「HYPHN」はそれをブラッシュアップした製品とのことです。オーソドックスなバランスを基調として、堅実な描き方をする同社のスピーカーの本質はそのままに、対向配置ウーハーによる解像度の高い低域が印象的でした。

「HYPHN」は、実直に音楽を描くことでその魅力を素直に表現するタイプです。外観は斬新なものですが、音を描く本質的な部分は同社の他のラインナップと共通しており、長い年月が経っても色褪せない魅力を放ち続けることでしょう。



DALI  RUBIKORE

DALI RUBIKORE

 DALIは、デンマークに拠点を持つスピーカーブランド。デンマークを含むスカンジナビア地方は、ScanSpeakを始めとした数々の名門スピーカーブランドが集まっており、世界中のハイエンドスピーカーへスピーカーユニット(ドライバー)の供給を行っています。

 DALIは、近年「KORE」や「EPIKORE」という大型スピーカーシステムを発表し注目を集めており、その技術をより現実的なモデルに落とし込んだのが今回発表された「RUBIKORE」です。外観や名称から推測すると現行の中堅機「RUBICON」シリーズの後継であることが想像されます。

 音は、歪の少ないすっきりとした感触の中に、音楽のダイナミクスを描いていくDALIらしいものです。歪を抑えた磁気回路や、今回新しく開発した振動板が音質向上に寄与しているものと思われます。



DENON PMA-3000NE

DENON PMA-3000NE

 先に紹介した「RUBIKORE」を駆動していたのが、DENONの「PMA-3000NE」。大人気のプリメインアンプのPMA-2000シリーズが、2500になり、そして遂に3000シリーズになりました。

 初代のPMA-2000が10万円だったのに、この「PMA-3000NE」はなんと52万円! 30年の年月が経ったとはいえ、本体中央に並んだ2つのEIコアトランスという見た目はほとんど変わらないままで、この値上がり。アルミ鋳物で各部をガッチリ固めた「PMA-SX11」より高価な値段での登場ということにも驚きを隠せなかったのと同時に、この価格上昇をどう解釈すればよいか悩みました。

 初めて聴くDALIのスピーカーとの組み合わせなので、あまり細かい評はできないのですが、他の方のレビューでも「PMA-3000NE」は一皮剥けたサウンドであるという好意的な感想が目立ちました。今までのDENONアンプは、ある種パワーで押し通すようなイメージがありましたが、この「PMA-3000NE」は解放感と情報量の表現が素晴らしい音です。これは旧2000シリーズの後継というより、新たな高級プリメインアンプの誕生というべき快挙です!

 写真の出力端子部の銅プレート導体など、様々な工夫が見てとれます。なお、重量は24.6kg。一人で動かすことができるギリギリの重さですね。



PIEGA Master Line Source 2 GEN2、Coax411

PIEGA Master Line Source 2 GEN2、Coax411

 リボン型を特徴とするPIEGA社の事実上のトップモデル「Master Line Source 2」が、第二世代(GEN2)にバージョンアップしました。事実上のというのは、最上位の「Master Line Source」は存在こそしていますが、国内の店頭や雑誌で殆ど見かけることがないため、この「Master Line Source 2」がトップモデルだと認識しています。

 旧モデルと比べて、より癖が少なくリボン型であることを意識させない良さがありました。その一方で、リボンの魅力を積極的に聴かせる旧Master Line Source 2の音作りが懐かしく感じることもありました。ただ、これは短い試聴時間だからの話あって、幅広いジャンルを違和感なく末永く聴けるのはこの新しいGEN2の方だと思います。

 「Master Line Source 2 GEN2」は1,870万円という価格なので、一般のユーザーにとっては同じくGen2になった「Coaxシリーズ」が魅力的な選択肢になると思います。

 写真に写っているブックシェルフスピーカー「Coax411」は、旧「Coax311」の進化系。311を試聴した際は、シルバーの外観から想像できない温かみのあるボーカルが印象的だったので、この411の出音も気になるところです。



モニターオーディオ Platinum 300 3G

モニターオーディオ Platinum 300 3G

 同社の「HYPHN」は規格外のスピーカーでしたが、こちらはより現実的なハイエンドスピーカー。Platinumシリーズは、旧PL-xxxⅡシリーズから注目しており、高価格化が止まらないハイエンドスピーカーのなかで、現実的な価格(少なくとも新車より安いぐらい)を維持しながら魅力のある音を聴かせるスピーカーを送り出しています。

 この「Platinum 300 3G」は、今回の新ラインナップの中のトップモデル。以前には「PL-500Ⅱ」という超大型モデルがあったのですが、あまりに大き過ぎると各方面から指摘されたのが原因なのか、今回は300までとなっています。

 スピーカーユニットを後ろから固定する構造をしており、それが音に直結している印象です。音のダンピングや立ち上がりが抜群に良く、音色を殆ど加えない音作りながら生き生きとした音楽を表現します。旧PL-300Ⅱより中高域が自然な感じになってるようにも感じました。地道な改良を重ねたモデルならではの、安心して聴けるサウンドですね。



ソナスファベール Suprema

ソナスファベール Suprema

 TIAS2024の注目製品、それがソナスファベールの「Suprema」です。お値段はなんと1.7億円!消費税だけで1700万円という、驚愕の値段です。もはや家より高いスピーカーです。

  試聴は整理券制

 1700万円のハイエンドスピーカー10ペア分。その値段に匹敵する音が出るのか、いや、自分の耳がその価値を理解できるのだろうか。聴くまでは不安しかありませんでしたが、音が出た瞬間に杞憂に終わりました。

 最初の試聴曲は「Black Samurai」(WYR GEMI)。日本の侍をイメージした曲のようで、重厚感のある琴の音色に、地の底から這いあがるようなパーカッションが交じり合うエレクトリックな楽曲です。38cm口径×2という巨大なサブウーハーのパワーに加え、濃厚でありながら一切の滲みがない中高音に、ただひたすら驚くばかりでした。

 次の試聴曲は「Kyrie(Vidala-Baguala)」(メルセデス・ソーサ)。荘厳なコーラスと、女性ボーカルが聴きどころ。今までの「オーディオ的音質」か「音楽的表現力」か、という二者択一的な議論を一瞬で吹き消してしまうような、高度な表現力のある音を聴くことができました。自然でさりげないなかに、豊かな表現力と、膨大な情報量を吹き込んでくる。ハイエンドスピーカーの新境地ともいえる音でした。

 その後は、クラシックの大編成の曲をいくつか試聴しました。しかし、実はこれらは余り印象に残っていません。グランカッサなどの超低音楽器がない楽曲だったので、あまりサブウーハーの威力は感じられませんでした。そうなると、同社の「Aida」や「Lilium」、さらには「Guarneri G5」と比べて、5倍、10倍以上の価値を感じることができたかというと、そうでもないなという結果になってしまいます。もちろん、私自身、クラシックの生演奏は年に1度ぐらいしか聴かないので、日々足繁くクラシックコンサートに通っている人であれば、その魅力を感じられたかもしれないので、これは私の経験不足を嘆く限りです。

 30分余りの短い視聴時間でしたが、超ド級スピーカー「Suprema」と、それを駆動するBurmester社アンプという、圧倒的な音を堪能することができました。再度聴く機会があるか分からない体験でしたが、オーディオ史に残るスピーカーであるのは間違いないでしょう。




ワーフェデール LINTON Heritage

Wharfedale LINTON Heritage

 超弩級スピーカーを聴いた後、圧倒的な音質を堪能した満足感と、それが絶対に手に入る価格でないという絶望感の二つの感情でフラフラになりながら、どこのブースに寄ろうかと思ったとき、心地よい音楽に誘われて入ったのが、ロッキーインターナショナルでした。

 鳴っていたのはWharfedale(ワーフェデール)の「LINTON Heritage」。なんとお値段はペア31万円。実売価格は20万円台!

 しかも、安いだけでなく、音楽の聴きどころをバッチリ押さえた心地よい音を奏でているのです。ドラムがドンとリズムを刻み、シンバルがバシッとスパイスを加え、ボーカルがノリノリで歌っている。音楽を聴くのにこれ以上の何が必要でしょうか。



LEAK STEREO230, CDT

 LEAK STEREO230, CDT

 先のワーフェデールを駆動していたのが、LEAKのアンプとCDトランスポート。デジタル入力のあるアンプなので、プレーヤーはトランスポート機能のみという潔い構成。

 外観は、ウッドデザイン基調でレトロな雰囲気。しかしながら、先ほどの音を聴く限りでは、バチンバチンと弾けるサウンドを奏でている秘密はこのLEAK社の駆動系にあるのではないかと思っています。いわゆるアナログレコードっぽい鮮度感のある音のアンプなのでしょう。




YG Acoustics ASCENT

YG Acoustics ASCENT

 YG Acoustics社は、アルミニウム切削によるスピーカー製作で有名ですが、その特長を維持しながらより現実的な価格にしたのが本機「ASCENT」を含むPeaksシリーズです。

 上位のReference3シリーズと比べて、穏やかで温かみのある音調は、今までのYGのイメージとは異なる傾向だと感じました。温かいといっても、独自の音色を付与することは無く、あくまでもソースの音に忠実であることに徹するスタンスは維持されています。よりコンパクトなCAIRNやTORは、国内でも人気が出そうですね。



MAGICO M7

MAGICO M7

 YGAcousticsと並び立つ、アメリカの最先端ハイエンドスピーカーメーカーMAGICO。アルミニウムとカーボン素材を巧みに組み合わせた密閉型の筐体が特徴で、「M9(1億2千万円!)」の弟モデルとして登場したのがこの「M7」です。弟モデルと言っても「M7」は8,580万円というお値段なので、より現実的な価格で買えるのはAシリーズの「A3」や「A5」になるでしょう。

 MAGICO M7

 あまり長い時間聴くことは出来なかったのですが、エレクトリック系の音楽では、滲みが無く叩きつけるようなパーカッションを聴くことができました。密閉型のウーハーということもあってか、全域でスピード感が揃っているのがいいですね。



JBL DD67000

JBL DD67000

 伝統のあるスピーカーメーカーのJBL。その最新フラッグシップモデルとして君臨するのが「DD67000」です。旧製品のDD66000から、マグネシウムドライバーを搭載するDD65000と、ベリリウムドライバーを搭載するDD67000に分かれています。

 DD67000になってからは初めての試聴になりましたが、大面積で押し出す音の魅力は健在。生の音とは何か、という揺るぎない哲学が感じられるサウンドで、情報量が・・・とか、空間が・・・とか考える以前に、生の音にしかない音の存在感や突き抜けるエネルギーを表現してくるところは、まさに唯一無二の魅力があるといえます。

 低域の表現も素晴らしいもので、体を突き抜ける低音を軽々と出してくるのには驚きました。これは38cmウーハー2発という、大面積で押し出すことで得られるものなのでしょう。



VIVID Audio Moya M1

VIVID Audio Moya M1

 南アフリカに拠点を持つVIVID Audioは、元B&Wのエンジニア ローレンスディッキー氏が立ち上げたブランドです。オリジナルノーチラスにあるような、消音チューブを使ったエンクロージュアは、「GIYA」シリーズなど、特徴的な外観をもつことが有名です。

 そのトップモデルがこの「Moya M1」。お値段は7,590万円。ハイエンドといえる価格帯のGIYAシリーズの遥かに上の価格になったわけですが、それ以上に奥行き1.2m、重量346kgを許容できるリスニングルームが必要でしょう。(※搬入時は分割できる)

 8本のウーハーからは、深く透明な低音を聴くことができました。巨大なエンクロージュアは十分に制振され、音は引き締まった傾向です。大柄なスピーカーですが、こうした音の傾向ゆえに音像が肥大化するようなことはないでしょう。




総論

 ハイエンドオーディオが集まるTIASですが、今年は超ド級スピーカーが目白押しでした。価格は1000万円を遥かに超え、1億円を超える製品が出てきたのも今年の特徴です。世界的なインフレ、貧富の差の拡大のなかで、今後はさらに高額なオーディオ機器が出てくるものと思われます。

 自動車レースのF1は、観戦することに重きがあり、数億円と言われるそのマシンを購入しようと考える人は少数です。ハイエンドオーディオも、メーカーの威信をかけた音を体感することを楽しみとして、自身の購買活動とは切り分けて考える行動が今後は多くなってくるかもしれません。

 現在のオーディオショウは、購入検討としての試聴の場と、そうした観戦(冷やかしとも言えなくはない)が入り乱れている状況に感じます。そうした中で、ナスベックや、トライオードが、音楽を楽しむことに重きを置いた企画を行うなど、新たな潮流も感じることができました。今後のオーディオ業界の発展と変化を楽しみにしていきたいところです。


TIASで聴いた楽曲はこちら!




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