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24.ヤマハ製9cmフルレンジスピーカーユニット
無線と実験 2024年春号の記事「[MJテクニカルレポート]●YAMAHA製新開発スピーカーユニットを使ったスピーカー自作&試聴会イベント報告」に、突如登場したヤマハ製のフルレンジユニット。
あのヤマハ製ということで期待も大きいと思いますので、詳細に紹介しようと思います。
1. 私が製作したスピーカー
2023年の秋ごろでしょうか。小澤先生から先行イベントのご案内を頂き、とんとん拍子に何か作品を作ることになりました。私の核となる「ひのきスピーカー」にするのはもちろんですが、順位が付かない気軽な(?)イベントとのことでしたので、新しい実験要素をいくつか入れてみました。
私の作品「ひのき小道」は、無垢ひのき材で作っているのが特徴であるのに加え、ユニットの磁石部分を支える構造にしています。また、新しい取り組みとして、箱内部に逆ホーンの音道を仕込んでみました。
特性を測ると、音道に由来する200Hzのダクト出力音圧を作ることができました。とくに、
女性ボーカルの下の帯域をしっかり支えられる音にできたのは良かったです。
バスレフ共振は箱全体の空気容量で算出した値に近い60Hz。また、細長い内部構造のせいか共振は弱く、だら下がりな低音特性になりました。
当日は暗騒音が小さいヤマハの試聴室での試聴になりました。低音がダラ下がりな特性で、低音不足が懸念されましたが、結果的にはしっかりとした低音が感じられて私は満足でした。
緩やかにロールオフする周波数特性の低音は、一見低音が伸びていないように見えますが
質感表現の点では有利になります。これはバスレフ型vs密閉型の議論と同じで、ダラ下がりな低音特性になる密閉型の方が低音質感では好ましい結果になります。
今回は「逆ホーン+バスレフ」という変則的な手法でしたが、3Lぐらいの小さな箱でも同じようなロールオフ特性は狙えるはずなので、そこは聴き比べてみたいですね。
あと、無垢木材で「音響管構造」を作ることの功罪も把握できました。内部の仕切り板が箱の補強になるため、箱の強度は今までの ひのきスピーカーでもトップレベル。しかし、いざ鳴らしてみると、
素材の固有音が強くつき、対策に苦慮しました。構造の複雑さが生むデメリットもあるのです。
2. スピーカーユニットの試聴感想
当日は、私以外の作品も含めて、6種類のエンクロージュアで聴くことができました。それらを総合して、以下の感想を抱きました。
音質レビュー
音の印象は、
「精緻」でありながら「パワフル」。まず、外見で「旧FE83の非漂白 紙コーンの再来か!?」と思ってしまいますが、違いました。まあ、素材の色を活かした外観であることには違いありませんが、いわゆる紙コーンとして定義するには音がちょと違います。
エージング前にユニット単独で鳴らしたときは、硬質な中高音域が聴こえて不安になりましたが、
スピーカーが完成してしっかり鳴らしてみたら、
リアルな音像と音場が緻密に展開され、音の透明度が抜群に高い端正なサウンドを聴かせてくれました。
ボーカルを鳴らしても、大編成のクラシックを鳴らしても破綻しない。音量を上げても騒がしさはなく、音の骨格を感じるエネルギー感がどんどん出てくる感じです。
2wayっぽい音かというと、そうではないのが面白いところ。レンジ感はあくまでもフルレンジで、その土台となる基本性能が異様に高いのです。�
技術的な特徴
振動板を触らせてもらうと、
ガチガチに固い振動板でありながら、フワッとした軽さがあるのに驚きました。
紙というより、繊維強化プラスチック(FRP)を触った感じに近いかもしれません。実際の製法は抄紙なのかもしれませんが、印象で言えばそんな感じです。
もっと驚いたのがエッジです。一般的な発泡ゴムのような弾力は極めて少なく、スポンジ、いやティッシュペーパーのような柔軟さがありました。
振動板がガチガチなのに対して、エッジはフニャフニャでふわふわです。スピーカーのエッジとして、かなり理想的なものが作れているのではないでしょうか。
気になったポイント
ベタ褒めしすぎるのも怪しいので、気になったポイントも挙げましょう。それは高域の表現力です。
低域からボーカル帯域までは盤石なのですが、シンバルの音の表情に若干違和感があるように感じました。耳につくというわけではなく、高音の描き方がやや平坦という感じでしょうか。これは複数の方の作品で聞き取れたので、ユニットの個性と思われます。
おそらくですが、一般的な紙コーンが(中高域でいったん暴れたあと)しなやかに分割振動する10kHz付近で、この高剛性振動板は苦手な動作を強いられるのかもしれません。
まあ、気になる人は、適当にツイーターを加えれば良いので、大きな問題ではありません。
コストパフォーマンスについて
現段階でも試供品扱いなので、コストパフォーマンスを定義するのは難しいですが、いま市販されている
8cmフルレンジ(ペア約1〜2万円前後)からのグレードアップに最適な音質だと思います。
10cm口径フルレンジ相手でも、この高剛性振動板の低音は十分に勝機があるのではないでしょうか。
バックロードホーンへの適性
バックロードホーンで使えるかはちょっと分かりません。パワフルとは言いつつも、端正さが魅力の中高音域をもつユニットなので、ホーンからの中低音とマッチするかどうか…。
バックロードホーンで使うのなら、順当に定番の紙コーンフルレンジ(FE108NSとか?)を選んだほうが苦労しない気がします。
アニソンとの相性
私がヤマハ試聴会でのデモで鳴らした曲です。私が好きなアニソンをガチで鳴らしました!
できるかなって☆☆☆(ひだまりスケッチ×☆☆☆)
吹雪(艦これ)
MY舞☆TONIGHT(ラブライブ!サンシャイン!!)
ミモザ(ゆるキャン△)
他、3曲
ひのきスピーカー×ヤマハ9cmは、アニソンを十分に鳴らせるクオリティになっていました。録音が今一つといわれるアニソンだからこそ、それをリアルかつ心地よく聴かせるには、再生機器には高い性能が要求されます。このヤマハ製9cmフルレンジは十分な性能があると感じました。
当日の発表では、CDとSACDの音質差を描き分けられる、というプレゼンをされた方もいらっしゃり、このユニットの懐の深さを感じた次第です。
まとめ
総じて、
万能型の使いやすいフルレンジであるだけでなく、突き抜けた基本性能をもつユニットだと思います。音色はニュートラル基調で、音像の密度感や重さを表現できるところに強みがあります。とくに、低音表現は口径の制約を逸脱しており、ヘビメタの低音の重さとキレの両立は圧巻。
アコースティック系でも、ピアノの打音や、空間の広がり、スムーズな音の表現で、このユニットの魅力を感じて頂けると思います。
もちろん、アニソン再生も問題ないのは確認済です!
オーディオは好みの世界でもあるので、ミスマッチを防ぐために説明しておきたいのは、「苛烈に迫りくる感じ」や、「爽やかな高音の表現」を期待するユニットではありません。あくまでも、入力された音を忠実に出力することを特徴とした、堅実な音づくりのユニットだといえるでしょう。
また、振動板の強度を反映しない(振動系質量としてのみ考慮する)TSパラメーターは至って標準的です。自作スピーカーの世界では、「Q0が低いから駆動力がある」「f0が低いから低音が出しやすい」といった短絡的な判断がされがちですが、そうしたパラメーターに現れない音の優劣も多くあります。TSパラメーターに現れない音の良さをしっかりと追い求めていることが、このヤマハのフルレンジユニットの大きな魅力だと考えます。
3. 他の参加者さまの作品紹介
小澤先生の作品
アラスタさんの作品
たてちゅうさんの作品
「YAMAHA試聴会11: たてちゅうブログ」
てつさんの作品
「YAMAHA製新開発スピーカーユニットを使ったスピーカー自作&試聴会イベント」
kenbeさんの作品
「ヤマハ主催・スピーカー自作試聴会イベント参加作品・詳細」
4. イベントの募集
この9cmフルレンジユニットを使ったイベントが企画されています。ご興味のある方は、ぜひどうぞ。
ヤマハと創るスピーカー自作&試聴イベント|ヤマハミュージックメンバーズ
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