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22.スピーカーの低音を抑える9つの方法
低音は出なくても困りますが、案外
「低音が出過ぎて困る」という状況も多くあります。低音が必要以上にボワついてしまったり、圧迫感のある音になってしまったりすると、落ち着いて音楽を聴くことができないばかりか、低音ばかりが煩くボリュームを気持ちよく上げることもできなくなってしまいます。
低音全体がドカドカと出過ぎることもありますが、特定の帯域だけが圧迫感のあるような不自然な音になってしまうことも本格オーディオでは起こりやすいパターンです。これは、スピーカーの低音再生能力が高いにも関わらず、その能力が十分に生かせていないことが原因です。
スピーカーの買い替えをするのも手ですが、せっかく買った愛機なので長く使いたいものです。低音を正しく理解し、しっかりと使いこなしをすることで、気持ちいい低音に仕上げていくことができます。以下には、低コストで効果があると考えている順に紹介していきます。
目次
対策コストパフォーマンス★★★
対策コストパフォーマンス★★
対策コストパフォーマンス★
1. バスレフポートを塞ぐ
最も簡単かつ効果的に低音を抑える方法は、バスレフポートを塞ぐことです。スピーカーの大半は、スピーカー正面もしくは背面に低音を増強させるための穴「バスレフポート」があります。
このバスレフポートは、小さなスピーカーから効果的に低音を出すために有効なのですが、低音が出過ぎる状況ではその働きを抑えてやることが必要になります。対策方法は簡単で、
家庭用スポンジなどを穴に詰めて蓋をします。
注意点としては、詰め物が中に落ちないように気を付けることです。構造から察してのとおり、一度スピーカーの中に落ちてしまうと回収はほぼ不可能です。つい奥に入れ過ぎて取り出せなくなるのも避けたいものです。軽く詰めてやるだけで十分に効果を発揮しますし、
完全に密閉できなくても問題はありませんので、無理のない範囲で挿入してみて下さい。
また、
バスレフポートを塞ぐことで若干音質に変化があることにも注意が必要です。具体的には、ポートを塞ぐことで、やや細身でヌケが悪いようなになることがあります。塞ぐのに使う材質をスポンジ以外のものにしてみたり、より柔らかい素材を使うことで変化を抑えることができます
2. 試聴位置を変える
試聴している位置では低音が多すぎるのに対して、
部屋の中央では低音が少なく聞こえる場合は、スピーカーを設置する位置と、試聴する位置を大きく変えることが効果的です。
低音は、部屋の隅に溜まりやすい性質があり、物が少ない部屋ではその傾向が顕著になります。これを「定在波」と言い、
30~200Hzの低音域の特性は、部屋の特性に大きく左右されるとも言われます。
この定在波による低音の挙動を理解するために、
水を入れた水槽をイメージしてみましょう。
水槽にチャプチャプと小さな波を起こした場合、その波は水面全体に広がります。(左図)
次に、水槽を手にもって、ダップンダップンと左右に揺らして大きな波を立てます。このとき、水槽の端は水位の変化が大きいのに対し、水槽の中央の水位は殆ど変わりません。(右図) これが定在波に基づく現象でして、
大きな波に相当する低音は、部屋の中央の方が小さく聞こえるのです。
もうお分かりかと思いますが、
リスナーの位置が「部屋の中央」に近い位置になるように模様替えをすることで、低音を抑えることが可能です。なかなか自由にスペースを確保できない部屋では難しいかもしれませんが、コストをかけることなく大きな改善が期待できます。
この定在波は、部屋の密閉度が高く、物が少ない場合に顕著になります。近年の鉄筋コンクリート造のリビング(LDK)でのスピーカー再生では、大きな問題になりやすいのです。
3. スピーカーを壁から遠ざける
最も基本的な方法で、スピーカーを壁から遠ざけることで、低音を抑えることができます。低音は高音に比べて指向性が低く、スピーカーの前後左右を問わず広がっていきます。スピーカーが壁に近すぎる位置に設置されていると、低音は行き場を失い、リスナー側に過剰に向かってきてしまいます。
十分な効果を得るには、
壁から50cm~1mぐらい手前に移動することが必要ですが、低音と同時に音像や音場の表現が改善されることも期待できます。これはフリースタンディングと呼ばれる設置方法になり、壁からの反射音が減ることで、スピーカー本来の持ち味が発揮できることが知られています。
4. 吸音材を使う
吸音材は、適切に使うことで再生音全体のクオリティを引き上げることが可能です。その一方で、誤った使い方をすると、音の活力が損なわれてしまったり、面白みのない音になってしまうこともあるので注意が必要です。
低音をコントロールするには、
「部屋の隅に」「十分な量の」吸音材を使うことが望まれます。カーペットを丸めたものを部屋の隅に立てかけておくといい、という話を聞くことがありますが、狙いとするところは同じです。
水を入れた水槽をダップンダップンと揺らした時の例のように、部屋の隅の方が定在波による音圧を受けやすく、吸音材を置くのに適したスペースになります。
定在波が顕著なところに吸音材を集中的に設置することで、低音の強調感を抑えることができます。部屋の悪影響を抑えることで、より原音に忠実な低音再生を狙うことができます。
以前、私はスピーカーの中央に段ボール箱を置いていたことがありました。
段ボール箱は非常に手頃な低音吸音材として機能し、低音の解像度を高めるのに一役買ってくれました、中身にも吸音材が充填されており適度な密度があればなお良いでしょう。
試してはいませんが、未開封のティッシュ箱を大量に(それこそ100箱ぐらい!)部屋の隅に置いておくのも効果があるのではないでしょうか。いずれにしても、安く賢く対策をしたいものです。
5. イコライザーを使う
ここからは★2つとして紹介する手法です。低音が多いのなら、低音をイコライザーで下げるという対策は一番最初に思いつくものです。ただ、
部屋の特性で大きく凹凸が出来ている状況では、イコライザーを使った音圧補正は理想的な対策とは言えません。
それでも部屋の模様替えや大規模な音響対策をすることなく、フラットな特性を簡単に手に入れられるという意味では、イコライザーの右に出るものはありません。イコライザーを入れるデメリットとメリットを考慮したうえで、導入を検討してみるのが良いのではないでしょうか。
6. インシュレーターを使う
スピーカーの低音の聴こえ方を改善するのに、インシュレーターによる調整が有効です。
インシュレーターは、「インシュレート(隔離する)」を語源としており、スピーカーの振動を接地面に伝えないことが基本的な役割になります。低音が出過ぎる状態の場合、低音を床に伝えないことだけでなく、
中高音域の存在感をしっかりと出してやるインシュレーター選定が重要になります。
低音の量感を抑えることを目的とした場合、インシュレーターは
比重が軽いものを選びます。具体的には、木材の「松」や「ひのき」などで比重が0.3程度のものになります。木材以外では「アルミニウム」や「カーボン」でしょうか。いずれも低音は引き締める傾向です。たとえば、アルミニウム素材の1円玉をインシュレーターとして使うことはよくやられる手法です。
逆に、比重が重いこと、制振素材を使っていることに重きを置くインシュレーターは、低音の誇張感を助長してしまうこともあるので注意が必要です。インシュレーターを使えばいいのではなく、その狙いとする効果をよく把握して使うことが望まれます。
また、
スパイク形状(円錐状)のものは音の輪郭をハッキリとさせ、低音に埋もれがちな音像を上手く引き出してくれる効果を期待することができます。
7. 散音材を使う
散音材は、低音を吸収する作用は殆どありませんが、中高音域をしっかりと反射させリスナーに届けることで、相対的に低音を目立たなくすることができます。
ここで使う散音材は、比較的大きな板材(40×180cmの松集成材など)の表面に適当な凹凸をつけたものが良いでしょう。また、散音材はスピーカーから等距離にならないよう並べることがポイントです。
8. サブウーハーを使う
逆説的ですが、低音が出過ぎているときにもサブウーハーは有効です。先に挙げたようにバスレフポートを塞ぐと確かに低音の量感が抑えられれますが、低音の伸び(深み)も抑えられてしまいます。
そこで、低音を抑える対策を行った後に、最低域に少しだけサブウーハーを加えると、非常に満足度が高い音が得られることが多いです。新品のサブウーハーは高価なものが多いですが、中古では「ビクター SX-DW7」のように優れた性能のものを安価に購入することができます。
9. スピーカーケーブルを交換する
スピーカーケーブルは、細身なものは概して低音を引き締める効果があります。オーディオ評論家の福田先生が入門用スピーカーケーブルテストとして500円~2000円/mと入手しやすいグレードのものを紹介しているので、そちらを参考にするとよいでしょう。
まとめ
以上、低音を抑えるための9つの方法を紹介しました。過剰な低音は非常に聴き心地を悪くしますし、特にPOPSなどの電子音楽を聴くには絶対に避けなければいけないものです。ここで紹介した対策をもとに、満足度の高い音を手に入れてみて下さい!
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