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高音質を目指すためのスピーカー技術 > 15.同軸スピーカーの理論と音質(試聴レポート付)
15. 同軸スピーカーの理論と音質(試聴レポート付)
~目次~
・
同軸スピーカーとは
・
同軸スピーカーのメリット
・
同軸スピーカーの理論的考察(放射方向による位相差について)
・
同軸スピーカーの他のメリット(リニアフェイズ)
・
同軸スピーカーのデメリット
・
同軸スピーカー試聴① KEF Blade One Meta を聴く
・
同軸スピーカー試聴② KEF LS60 Wireless を聴く
・
同軸スピーカー試聴③ Technics SB-R1 を聴く
・
同軸スピーカー試聴④ ELAC CONCENTRIO S 503 を聴く
・
同軸スピーカー試聴⑤ GENELEC 8351 SAM™スタジオ・モニター を聴く
・
同軸スピーカー試聴⑥ 同軸スピーカー試聴⑥ TANNOY Stirling/GR を聴く
・
同軸スピーカー紹介① FYNE Audio
・
同軸スピーカー紹介② TAD
・
同軸スピーカー紹介③ パイオニア
・
同軸スピーカー紹介④ PIEGA
・
同軸スピーカー紹介⑤ NODE(ノード)
・
同軸スピーカー紹介⑥ Cabasse(キャバス)
・
同軸スピーカー紹介⑦ マクソニック
・
同軸スピーカー紹介⑧ ファンダメンタル
・
まとめ
同軸スピーカーとは
皆さんは、「同軸スピーカー」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。同軸スピーカーとは、ツイーターがウーハー
(※ミッドレンジを含む)の中央に組み込まれた構造をもつユニットを搭載するスピーカーのことです。
※本章では、
同軸ユニットをもつスピーカーを「同軸スピーカー」として表記します。例えば、ツイーターとミッドレンジが同軸構成であれば、(ウーハーの配置が同軸でなくても)同軸スピーカーとして扱います。
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同軸スピーカーのメリット
同軸スピーカーには、どのような音質上のメリットがあるでしょうか。最も顕著なのは、垂直方向での音の放射特性の良さです。
スピーカーから出た音は、リスナーまで直線状に飛んでくると思われるかもしれませんが、実際は、部屋の壁や天井、床に反射した音も含めて聞くことになります。
例えば、天井からの反射音は、一般的な2wayスピーカーではTW(ツイーター)とWO(ウーハー)の境にあたるクロスオーバー周波数でディップが生じ、狙いとするフラットな特性ではなくなることがあります。
その一方で、同軸2wayスピーカーの場合、TWとWOが同じ場所に位置するため、こうした特性の変化は少なくなります。
天井や床からの反射音を含めて、フラットな特性を狙いやすくなるのが、同軸ユニットの良さと言えるでしょう。
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同軸スピーカーの理論的考察(放射方向による位相差について)
では、なぜこうした違いが起こるのでしょうか。これには、音の放射方向による距離差、音の遅れによる位相差について説明する必要があります。
一般的な2wayスピーカーでは、ツイーター(TW)とウーハー(WO)が離れています。スピーカーと同じ高さ、つまり直線方向に対しての放射音は問題ないのですが、斜めの方向(例えば天井への反射)では、上図のようにそれぞれの音の経路に差が生じます。
どのくらいの距離差が生じるかについては、次の図で説明します。
たとえば、TWとWOの距離が20cmとして、30°(リスナーから見て60°)の方向に放射される音は、17.4cmだけWOが遠くになります。
※天井の高さや、リスナーとの距離などにより、議論すべき放射角は様々に変化しますが、ここでは仮に30°としました。
距離差による音圧変化(遠い方が音が小さくなる)もありますが、それ以上に
位相差が生じることが重要です。
距離差が少しの場合は位相のズレはほぼ無視できますが、波長の半分だけの距離差が生じた場合は「逆位相」となり、無視できない問題が生じます。
2wayユニットでは、完全にTWとWOが別の音を出している訳ではなく、その境目があります。それをクロスオーバー周波数周波数といい、その周波数においてはTWとWOの双方から音が出ます。
たとえば、以下に示すように、2kHzの波長は17cmです。逆位相になる距離は、その半分の8.5cmです。2kHzにクロスオーバー周波数をもつスピーカーの場合、距離差が8.5cmになると、逆位相によるディップが生じることが分かります。
実際のスピーカーでも、どのような角度での放射で、ディップが生じるかは、計算をすることができますが、それは本章の後半に後日追記しようと思います。
まずは、同軸2wayでない一般的な2wayスピーカーの場合は、こうした
距離差によるディップの発生が起こりうるということだけ認識頂ければと思います。
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同軸スピーカーの他のメリット(リニアフェイズ)
同軸スピーカーには、他にも
TWとWOの発音位置(前後方向)が揃いやすく、いわゆる「リニアフェイズ」に近くなるというメリットがあります。
【TWとWOのボイスコイルの位置(点線)が、同軸2wayではほぼ一致する】
確かにこれも一理ありますが、一般的な2wayスピーカーでも工夫次第でリニアフェイズを実現可能であり、圧倒的なメリットとは言い難いものがあります。また、いわゆる「リニアフェイズ」でないスピーカーシステムであっても、位相を合わせることで良好な再生音を獲得しているスピーカーが多々存在します。
リニアフェイズによる音質上のメリットは少なからずあると思われますが、それ以上に、先に記した放射方向による音の変化の少なさが同軸スピーカーの最大のメリットだと考えています。
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同軸スピーカーのデメリット
同軸スピーカーの
デメリットとしては、高音域の放射角が狭められるという点があります。下に示したのは、同軸ユニットを搭載するKEFの「Blade One Meta」と、一般的なユニット構成のB&Wの「802D3」です。
(左)同軸スピーカーの例「KEF Blade One Meta」
(2022年 OTOTENにて)
(右)一般的なスピーカーの例「B&W 802D3」
(2017年インターナショナルオーディオショウにて)
同軸スピーカーの「KEF Blade One Meta」は、すり鉢状のミッドレンジ振動板の奥に、ツイーターが入っている形になります。これは、同軸ユニットの構造上避けられないものです。
一方で、「B&W 802D3」の形状は、ツイーターから放射された音が、背面までスムーズに広がるようなスピーカー形状になっています。
KEFの方も、音響的に考えられた「ウェーブガイド」という構造に基づいており、その放射特性は非常に優れています。一方で、B&Wのような開放的な形状のスピーカーによる音を求めるファンが少なからずいらっしゃると聞きます。
私が聞いた感覚では、
瑞々しい感触や透明感は、(B&Wのような)開放的なスピーカー形状が勝ると感じています。
なお、ウイーンアコースティック「The Music」や、テクニクス「SB-R1」のように、平面形状の振動板を使った同軸スピーカーも存在します。平面振動板はコーン型と比べて振動板剛性の確保が難しい方式ともいえますが、その音は注目していきたいところです。
テクニクスの同軸スピーカー「SB-R1」
(2022年 OTOTENにて)
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同軸スピーカー試聴① KEF Blade One Meta を聴く
英国のスピーカーメーカー、KEFのハイエンドモデル。価格はペア440万円です。
(以下、価格は2022年7月時点)
1988年より続く
同軸ユニットの「Uni-Q」は、第12世代のものを搭載。ツイーター背面の音を吸音する特殊構造「MAT」も注目されるポイントです。
2022年 OTOTENにて
解像度を極限まで上げたような音は、流石KEFのフラッグシップ。その一方で、
女性ボーカルは温かい雰囲気で鳴らし、KEFらしい魅力を感じます。
ピアノが空間に広がっていく様子など、丁寧で心地よい部分に同軸のメリットが光る印象です。空間が広がった先にも、濃厚で均質な音色で音像が定位するのが、同軸の良さだともいえます。
どういう音調で音場を描くかはメーカーやモデルによって異なりますが、その描き方に同軸らしさを垣間見ることができました。
その音は、静けさを保ったまま、楽器のディティールと音場がフワッと浮き上がります。MATを投入した12世代ハイエンドUni-Qドライバー、金属筐体、水平対向配置のウーハーなど、その全てが音に結実しているように感じます。ガチガチに固めて音を消したときの音とは異なり、その質感は穏やか。この緩急の付け方が、実に魅力的です。
低音は十分に低いところから最高域まで、高い解像度をもって自然に鳴らす能力があり、現代の大型ハイエンドスピーカーを代表的するサウンドだといえるでしょう。
KEFは、「Q150」のようにペア10万円以下でも買える入門モデルにも同軸スピーカーがあるのが特徴です。入門価格帯での同軸スピーカーは、KEFが随一ではないでしょうか。
もう少し上の価格帯では、ペア18万円の「
LS50Meta」のようにMAT搭載12世代Uni-Qを搭載したコンパクトな製品や、ペア88万円の「LS60 Wireless」のようなワイヤレスモデルも注目できます。どちらも抜群の特性の良さが知られておりながら、音質はKEFらしいフレンドリーな暖かさを感じさせるモデルになっています。
2022年6月 KEFショールームにて。「LS50 Wireless」「LS60 Wireless」
KEFの同軸スピーカーの特徴
・進化を続けるUni-Qドライバーならではの、風合いの良い音質と、抜群の特性
・10万円以下の価格帯から、同軸スピーカーをラインナップ
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同軸スピーカー試聴② KEF LS60 Wireless を聴く
KEFの「LS60 Wierless」は、2022年秋に発売の製品。スリムなトールボーイ型とし、充実した低音再生能力と、設置性の良さが魅力の製品です。
搭載する同軸ユニット「Uni-Q」は、最新の第12世代+MAT搭載のもの。価格は、ペア税込88万円
(2022年7月時点)でありながら、アンプ内蔵かつ同社のハイエンドスピーカーのBladeを彷彿させるユニット構成ということもあり注目を集めています。
2022年6月 KEFショールームにて
まずは藤田恵美さんの女性ボーカルを聴きました。落ち着いたバランスで丁寧に描きあげる印象です。高級オーディオにありがちなカリカリの描写力というより、
適度な温度感で心地よく鳴らしていくイメージでしょうか。
Uni-Qドライバがいかにも強そうな雰囲気(?)を醸し出していますが、音は穏やか。ボーカルは十分な情感を感じさせ、
声を張り上げたときにも歪っぽくならないのは、ドライバーユニットの優秀さゆえと思われます。
同社最小の10cm口径のUni-Qドライバ
ピアノの低音は緩むことはなく、量感とソリッドさを持って聴かせてくれるのが好印象です。この低音の質感は、平行配置されたウーハーユニットの効果と思われ、ピラミッドバランスで落ち着いた音という全体の印象に繋がっています。
宇多田ヒカルの「BeautifulWorld」を聴くと、心地よくノリの良い表情を楽しむことが出来ました。この辺は、KEFならではの音作りの魅力だと思います。
Hifiでありながら無機質さを感じさせない絶妙なところを狙っており、私が所有しているKEF Model 201も共通した印象を受けます。
低音はソリッドで分厚く表現されますが、試聴したときには50Hz以下が若干薄手になるようにも感じました。低音再生は試聴する空間(部屋)の影響も大きいため断定は難しいのですが、40Hz以下まで分厚く表現するBladeと同じものを期待すると、肩透かしを食らってしまうかもしれません。LS60は低音が飽和しやすい高気密なマンションの一室で鳴らしたときに、その真価を発揮すると思われます。
こうしてLS60を聴くと、超低域から超高域まで研ぎ澄ました解像度とレンジ感をもつBladeとは異なったキャラクターに感じました。
仕事帰りに、ふっと音楽を聴いて、その上質さに心を緩ませる、そんな音がLS60の魅力ではないでしょうか。
Youtube音源として、SF映画の予告編を見とすごい迫力に驚かされます。低音は緻密さとエネルギーを感じさせ、台詞や効果音はバシッと決まります。説明を聴くに、
Youtubeのような圧縮音源(一般的にぼやけた音になりやすい)は、スピーカーに内蔵される信号処理回路でアップコンバートして再生されるとのこと。このアップコンバートが非常に良くできており、違和感がないどころか、非常に魅力的な出音に繋がっていました。
業務用のモニタースピーカーでは、以前からアンプ内蔵型が多くありましたが、このLS60はその分類には入らないと思います。確かに、KEFのスピーカーは優れた特性を持っており、モニター用途でも十分な能力があるが、
本機は上質な音を楽しむリビングにこそ向いているでしょう。(実際に、TV下に設置するサウンドバーからの買い替えでの注文も多いそうです。)
例えばこのLS60は、再生音量を小さくしても、しっかりとした帯域バランスをキープした音を聴かせてくれます。説明を聞くと、音量に応じた帯域バランス補正が入っているとのこと。従来のラウドネススイッチに代表されるようなスピーカーの能率を考慮できない雑な補正とは異なり、違和感は皆無で良い仕事をしてくれる機能だと感じました。こうした機能を含め、外見、音質の全てが、
小難しいことを考えずに音楽を楽しむことにフォーカスした製品に結びついているといえるでしょう。
KEFの同軸スピーカー(ワイヤレスモデル)の特徴
・アンプ内蔵ならではの使い勝手と、家庭用スピーカーとして好ましい音質
・パッシブスピーカーにはない補正機能にも注目
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同軸スピーカー試聴③ Technics SB-R1 を聴く
Technicsのリファレンススピーカー「SB-R1」は、ペア297万円(税込)。
(以下、価格は2022年7月時点)
特徴的な同軸ユニットだけでなく、様々な技術を盛り込んだウーハーや、優雅な曲線を描くエンクロージュアにも注目です。
2022年 OTOTENにて
男性ボーカルの洋楽を聴くと、
すっきりと伸びた高音域と、極めてニュートラルな表現が魅力的でした。天然水を思わせる透明な質感を持っていながら、音像は想像以上に前に張り出し積極的。この辺は、今回の試聴で組み合わせたレコードプレーヤーの個性も含まれているかもしれません。
同軸ユニットの中では珍しく、平面的な構造をしています。以前にウイーンアコースティックのスピーカー「The Music」を聴いたときに感じた爽やかな質感に共通する要素を感じることができました。
高域のハイハットの響きは、ザラリとした質感を聴くことができました。
色彩感は控えめで、丁寧に磨かれたシルバーの光沢が思い浮かびます。
低音は、スピード感と弾力があります。CDでも、まるでアナログ盤のような弾力のあるエネルギーを感じさせてくれるのは、小口径の多発使いならではの音かもしれません。
Technicsからは、ペア11万円の「SB-C600」や、SB-R1と類似のユニット構造をもつ「
SB-C700(ペア17万円)」など、魅力的な同軸スピーカーががラインナップされています。
1975年のSB-7000(Technics7)からリニアフェイズ理論を提唱する、同社らしい同軸スピーカーを聴くことができるでしょう。
Technicsの同軸スピーカーの特徴
・国産ブランドのコストパフォーマンスに優れる同軸スピーカー
・丁寧でニュートラルな音調、描写力
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同軸スピーカー試聴④ ELAC CONCENTRIO S 503 を聴く
ELACには、フラッグシップの「CONCENTRIO」という巨大な同軸スピーカーがあります。価格はペア860万円
(以下、価格は2022年7月時点)、重量はベース部を含め165kg/本という超ハイエンドスピーカーです。
CONCENTRIOのコンセプトを継承し、より使いやすいサイズに仕上げられたのが、この「CONCENTRIO S 503」です。価格はペア130万円
(※ウォルナット仕上げ)と依然としてハイエンドスピーカーの枠ではありますが、
18cm口径ウーハーを搭載したブックシェルフ型に仕上げられており一般的な部屋でも使いやすい寸法になっています。
2022年 OTOTEN にて
同軸ユニットは、ELACの誇るJETツイーターを中心に配した「StepX-JET」。同軸ユニット周囲のリングは交換が可能で、指向性を部屋に合わせて変化させることができます。今回は、3つあるうちの「中間」の指向性で試聴をしました。
ヒュージョンを聴くと、同社らしい
粒立ちのいい高音に、晴れやかな中音が加わり、心地よい感触が好印象でした。
また、リスニングポジションの変化に極めて寛容であるこことに驚かされます。これは多くの同軸スピーカーに言えることですが、席を立ったり、横へ移動したりしても、音の印象の変化が小さく抑えられていました。本章の序盤で説明したように、斜め方向の音放射の特性が適切に制御されているためでしょう。
さらに、
スピーカーから離れた場所にも自由自在に音が定位するのが聴いてわかります。これも、どこから聴いても位相変化が最小に抑えられるど同軸のメリットと、さらにはリニアリティの高いJETツイーターの双方の良さが生きた形だといえるでしょう。
低音ば、弾力のある質感で、同軸ユニットのスピード感に付いていきます。スピーカーからエネルギー弾のような感じで、ポンポンと低音が打ち出されていく様子は実に心地よいものでした。
特徴的な見た目の「AS-XR CONEウーハー」は、名門クルトミューラー社のコーンをベースにしているとのことで、それを納得できる音質になっていました。
ELACの同軸スピーカー開発は、KEFやTADで同軸スピーカーを開発してきたアンドリュー・ジョーンズ氏が、2015年に入社してから加速したように感じます。2022年現在は、伝統的なJET搭載スピーカーと同軸スピーカーの2本立てでのラインナップになっており、より安価な同軸スピーカーとしては「Uni-Fi
Referenceライン」が存在します。
「
UBR62」は、「CONCENTRIO S 503」を彷彿させるユニット構成ながら、ペア15万円(税込)という価格が魅力的です。ツイーターがJETでないのが惜しまれますが、ELACの新潮流としての音が楽しめるのではないかと思われます。
ELACの同軸スピーカーの特徴
・同軸スピーカーで有名な設計者アンドリュージョーンズ氏の最新作
・最上級の「CONCENTRIO S 503」は、ELAC独自のJETツイーター搭載
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同軸スピーカー試聴⑤ GENELEC 8351 SAM™スタジオ・モニター を聴く
GENELECは、スタジオモニタースピーカーとして高いシェアを誇るメーカーです。その最新作の一つが「SAM コアキシャル スタジオモニター」シリーズです。
バッフル中央に同軸ユニットを備え、少し奥まった場所に隠れるようにしてウーハーが2発配されています。
サイズ違いで8331~8361の4つの製品が存在し、実売価格はペア61万円~132万円
(価格は2022年7月時点)とコンパクトモニターの最高峰とも呼べる価格帯になっています。今回試聴したのは、上から2番目の8351です。
生禄の自然音を聴くと、鳥の声は突き抜けるような生々しいエネルギーと、澄んだ質感が印象的でした。他にもロックやクラシック音楽を聴いても、力強さと自然な分解能が両立していることが分かります。
脚色を完全に排していながら、味わい深いサウンドに仕上がっているといえそうです。高音は若干ロールオフしているようにも感じましたが、リアリティを出すための解像度は十分で、部屋の環境によっても印象は変わりそうです。
ピアノの音は極めてリアルで、録音スタジオに使われることを納得させられるサウンドです。
リアルとは必要以上のエッジを出さないことであることを、このスピーカーは教えてくれます。金管はもう少し華やかさが欲しい気もしますが、上流系によっても変わってくるかもしれません。
2022年OTOTENにて。7.1cmシステムで試聴。
低音は、サブウーハー7380を含めての評価になってしまいますが、グラッと空気が揺れる低音域までをカバーしています。大型ハイエンドスピーカーのような圧倒的なパワーを感じる低音とは異なりますが、必要な量を必要なだけだ出してくれる感じはモニタースピーカーらしいといえるかもしれません。
同社の同軸スピーカーは、この「SAM コアキシャル スタジオモニター」シリーズのみになってしまいますが、アンプも含めてのお値段であることを考えればコストパフォーマンスは高いといえます。
PCだけでなく、ポータブルオーディオとの組み合わせをメインとするのも面白そうです。アンプ内蔵スピーカーを選択肢に入れられるのであれば、有力な選択肢の一つになるでしょう。
GENELECの同軸スピーカーの特徴
・スタジオ直系のサウンド、特性も秀逸
・アンプ内蔵ならではの使い勝手の良さ
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同軸スピーカー試聴⑥ TANNOY Stirling/GR を聴く
英国の老舗TANNOYは、「デュアルコンセントリック」という独自の同軸ユニットを使ったスピーカーを長年販売しています。その最新型が「GR(ゴールドリファレンス)シリーズ」です。
今回は、TANNOYのプレステージシリーズの(フロア型の中では)末弟にあたる「Stirling/GR」(ペア税込134万円)
(価格は2022年7月時点)を試聴することができました。
2022年のOTOTENより
今まで紹介してきた同軸スピーカーとはガラッと変わって、
骨太のサウンドで聴かせます。中域から低域がぐいぐい出てくる感触です。彫りの深いコーンが、ホーンとして機能しているためと思われます。ロックを聴くと、ドラムのアタックは控えめですが、押し寄せる濃厚なサウンドに引き込まれる魅力がありました。
同軸らしさは、空間表現より、スピーカーのど真ん中から出てくるエネルギーに魅力を感じます。古典的とも言えるサウンドですが、鮮度の高さが魅力的。
熱き血潮を感じる音がユニットのど真ん中から出てくる様子は、デュアルコンセントリックの見た目を含めて、高い満足度を感じさせるものでした。
低音は、その
大きな箱からベースギターやバスドラムが存分に出てくる感触が魅力的です。PAで使うスピーカーの鳴り方を知っている人であれば、この音を聴いて膝を打つに違いないでしょう。これぞライブサウンドといえる音は、聴かせ方をわきまえている老舗TANNOYならではの魅力を感じることができました。
TANNOYには「Stirling/GR」以外にも、様々な同軸スピーカーがあります。そのトップモデルが、「
Westminster Royal/GR」(ペア税込880万円)です。名機オートグラフから続くバックロードホーン型構造を巨大な箱に収めているのが特徴です。
2018年 東京インターナショナルオーディオショウにて
<Autograph mini/GR(手前)><Westminster Royal/GR(奥)>
Westminster Royal/GRでショスタコーヴィッチの交響曲5番を聴きましたが、
鮮烈なエネルギーを感じる金管と、スピード感に溢れるゴリゴリの低弦が印象的でした。フロントロードホーンとバックロードホーンの組み合わせによる音だと思われます。
一見老紳士のように見えるTANNOYのスピーカーですが、放たれるエネルギーのある音は歴戦の騎士を思わせる鮮烈さがあるという印象を抱いています。
最も入手しやすいのは、「Autograph mini/GR」(ペア税込40万円)でしょう。10cm同軸2wayを核とした小型スピーカーで、デスクトップでも十分に使えるサイズになっています。
小型とは言えど、80Hz付近を厚みをもって鳴らすのは流石TANNOYサウンドと思わせる魅力がありました。
TANNOYの同軸スピーカーの特徴
・伝統の同軸ユニットから感じる、熱いエネルギー感
・ライブの音を想像させる音調
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同軸スピーカー紹介① FYNE Audio
英国のスピーカーメーカー「FYNE Audio」は、2017年に創業した新しいメーカーです。しかしながら、TANNOYの出身の技術者などにより構成されたメンバーゆえ、その技術は確かなものがあります。
2018年 東京インターナショナルオーディオショウにて
特に注目は「F500シリーズ」です。
ブックシェルフ型「F500」はペア15万円と、比較的入手しやすいモデルになっています。
(価格は2022年7月時点)
2018年 東京インターナショナルオーディオショウにて 「F1-10」
試聴した印象では、どのモデルも厚みのある低音に支えられた音が印象的でした。比較的モダンなデザインも魅力的で、現在人気を集めているメーカーの一つになっています。
FYNE Audioの同軸スピーカーの特徴
・安価な価格から、高品位な同軸スピーカーを数多く展開
・振興メーカーながら、しっかりとした技術と音質
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同軸スピーカー紹介② TAD
同軸スピーカーを語るのに、日本のTADを避けることはできません。ハイエンドオーディオメーカーとして世界的な立場を築くTADは、「
CSTドライバー」という優秀な同軸ユニットを誇ります。
2019年 東京インターナショナルオーディオショウにて <TAD R1TX>
最高級機のR1TX、ブックシェルフ型のCR1TXでは、ツイーターとミッドレンジの双方が
ベリリウム振動板をもつ同軸構成になります。その音は極めて艶やかで高解像度。同軸スピーカーの最高峰の一つといっても過言ではないでしょう。
2019年 東京インターナショナルオーディオショウにて <TAD CR1TX>
その弟モデルとして設定されているのが「Evolution」シリーズです。9cm口径のCSTドライバーは、ミッドレンジがマグネシウム、ツイーターがベリリウムという構成です。
現在、トールボーイ型の「E1TX」と、ブックシェルフ型の「ME1」がラインナップされています。
2019年 東京インターナショナルオーディオショウにて <TAD E1TX>
E1TXの9cm口径同軸ユニット
このE1TXの前には、「
TAD E1」というモデルがありました。ミッドレンジがマグネシウム、ツイーターがベリリウムという構成は同じですが、口径はより大きな14cm。デザインが、R1と近いのも嬉しいポイントです。
世界的な技術者、アンドリュージョーンズ氏がTADに在籍していた頃の製品であり、ダイナミックで透明な描写力が印象的なスピーカーでした。
TAD E1
2011年 東京インターナショナルオーディオショウにて
TADの同軸スピーカーの特徴
・世界が認める日本のハイエンドスピーカー
・ベリリウムドームツイーターによる、艶やかで力強い音質
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同軸スピーカー紹介③ パイオニア
日本の老舗オーディオメーカー「パイオニア」は、今でこそラインナップを縮小させてしまいましたが、2010年頃までは数多くの名作スピーカーを生み出してしていました。
「S-1EX」
2006年 AVフェスタにて
ホームシアター全盛期の2005年に発売された「S-1EX」は、
TAD譲りのCSTドライバーを搭載した大型のトールボーイスピーカーです。ツイーターにはベリリウム、ミッドレンジにはマグネシウムを搭載していながら、2005年当時ペア100万円という価格で人気を博しました。
S-1EXは、奥行き60cmを超えるかなり大型のスピーカーなので、狭い部屋であればブックシェルフ型の「S-2EX」も選択肢に加えておきたいところです。
「S-2EX」
2006年 AVフェスタにて
この弟モデルに位置するのが「S-3EX」「S-4EX」です。ツイーターはセラミックスグラファイトになりますが、大型のS-1EXより鳴らしやすいという評判で人気のモデルでした。
(ちなみにS-5EXとS-7EXはセンタースピーカーです)
他にも、「S-A7」「S-A7Ⅱ」といった普及モデルでは、リボン型スーパーツイーターを搭載した4wayシステムを展開。当時ペア15~20万円という価格帯にあり、DVD時代のホームシアターを牽引したハイコストパフォーマンスモデルになっています。
パイオニアの同軸スピーカーの特徴
・コストパフォーマンスに優れる製品群
・中古市場で、比較的豊富に流通
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同軸スピーカー紹介④ PIEGA
スイスのスピーカーメーカー「PIEGA」は、リボン型のユニットと、アルミニウムのエンクロージュアを特徴とする製品を数多くラインナップしています。
その高級ライン「Coax」「Master」シリーズには、同軸ユニットが搭載されています。
(右)MASTER LINE SOURCE2
2016年 東京インターナショナルオーディオショウにて
(右)MASTER LINE SOURCE3
2018年 東京インターナショナルオーディオショウにて
同軸スピーカーは上級機のみの設定になっており、「MASTER LINE SOURCE2」はペア1000万円、最も安価な「Coax311」でもペア88万円です。
(価格は2022年7月時点)
大型同軸リボン型ならではの澄み切った音は、他では代えがたいものなので、ぜひ聴いてみて頂きたい逸品です。
PIEGAの同軸スピーカーの特徴
・独自のリボン型ユニットの同軸構成、一聴の価値あり
・澄み切った純度の高い音
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同軸スピーカー紹介⑤ NODE(ノード)
英国のスピーカーメーカー「NODE」は、2018年創業の新しいメーカーです。
2019年 東京インターナショナルオーディオショウにて <HYLIXA>
ミッドレンジとウーハーが軸上にあるユニークな構成です。その少し上にツイーターがあり、ほぼ完全な同軸3way構成を実現しています。
キャビネットは、3Dプリンターで製作されるガラス繊維配合ナイロン製。長い音道をもつトランスミッションライン方式が組み込まれるなど、意欲的な製品になっています。
NODEの同軸スピーカーの特徴
・意欲的な設計の同軸スピーカー
・デザインも含め、独創的な存在
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同軸スピーカー紹介⑥ Cabasse(キャバス)
フランスのスピーカーメーカー「Cabasse(キャバス)」は、1740年創業の楽器メーカーの流れをくむ老舗メーカーです。2008年頃には株式会社デジタルドメインが、2014年頃にはオンキヨーがそれぞれ輸入をしていました。
2008年 ハイエンドショウトウキョウにて
<「La Sphere(ラ・スフィア)」(左)、「Karissima(カリスマ)」(右)>
写真のとおり、特徴的な外観を持つ同軸スピーカーで、「La Sphere」は同軸4way、「Karissima」は同軸3wayユニットを搭載しています。国内では滅多に聴くことができないシステムですが、外観を含めて非常に印象的な同軸スピーカーです。
Cabasseの同軸スピーカーの特徴
・最上級機は、世界でも珍しい同軸4way
・国内流通はごく僅か、珍しい逸品
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同軸スピーカー紹介⑦ マクソニック
日本のメーカーマクソニック(Maxonic)は、磁石に電磁石を使った「励磁型」の同軸スピーカーを特徴としています。
2009年 音展にて 「TW1800」
能率は「TW1100」で104dBと極めて高いのが特徴。見た目はビンテージのスピーカーを彷彿させるものがあります。
2009年 八王子 SandGlass試聴室(※現在、閉店)にて 「TW1100」
マクソニックの同軸スピーカーの特徴
・ビンテージの世界を磨き上げた同軸スピーカー
・圧倒的高能率&励磁型磁石によるサウンド
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同軸スピーカー紹介⑧ ファンダメンタル
神奈川県に拠点を持つファンダメンタルは、2011年にソウルノート(SOULNOTE)を母体として生まれたブランド。2015年にファンダメンタル(株)と社名を変更し、活動を行っています。
Phile-web「(株)SOULNOTE、社名をファンダメンタル(株)へ変更」
そのモニタースピーカー「RM10Z」は、同軸ユニットを搭載した2way構成になっています。まだ聴いたことはありませんが、25mm厚削りだしアルミバッフルなど意欲的な設計になっています。
RM10Z
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まとめ
同軸スピーカーの理論に始まり、 様々な同軸スピーカーについて紹介してきました。 「一般的な構成のスピーカーと比べてどちらが優れているのか」というのは難しい問いで、正直、
同じ同軸スピーカーといっても音質は様々です。
ここで説明した各社の特徴を踏まえつつ、まずは実際に試聴してみるのが良いでしょう。
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評論/情報 > 高音質を目指すためのスピーカー技術 > 15.同軸スピーカーの理論と音質(試聴レポート付)