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02.小音量のためのスピーカー選び

皆さんは、どのような環境で音楽を楽しんでいらっしゃるでしょうか?

20畳を超える広大なリスニングルーム。 深夜でも大音量が出せる完全防音のお部屋。 近所に気兼ねなく音出しができる、広大な敷地。。。

そんなオーディオマニアの夢とは裏腹に、「小音量」で工夫しながら楽しんでいらっしゃる方が多数派だと考えています。 何を隠そう、設計者の私も、小音量派の一人なのです。


こうした現実的な環境では、こんな話を耳にします。

「試聴会で聴いたときは、素晴らしい音だったのに...」
「音量を上げると良いけど、小音量だと何だかパッとしない...」


いわゆる「音痩せ」と言われ、大音量で聴いた時と、小音量で聴いた時で音の印象が変わってしまう現象です。




広さ30畳以上の試聴会会場


店舗での試聴会は、非常に大きな空間、なおかつ大音量で行われます。 そのときにスピーカーに入力される電力は、我々が部屋で聴くときの10倍~100倍だと言われています。

それほどに前提条件が変わってしまうと、大音量再生で好ましい評価を得るスピーカーであっても、小音量再生で存分に実力が発揮できるとは限らないのです。




「音痩せ」の原因は、等ラウドネス曲線?

小音量での「音痩せ」の原因について、しばしば挙げられるのが「等ラウドネス曲線」の話です。
等ラウドネス曲線は、人間の耳の感度を音量ごとに示したものです。
中高音域は比較的聴こえやすく、その反対に低音と高音域は聞こえにくいことを示しています。


ISO 226:2003の等ラウドネス曲線(Suzuki-Takeshima曲線)
Yoiti Suzuki, Hisashi Takeshima. Equal-loudness-level contours for pure tones. J. Acoust. Soc. Am.116 (2), pp.918-933, 2004.


特に、音量が低い領域では、低音域と高音域の感度が悪くなるために、
「小音量で聴くときは、ラウドネススイッチ(低音と高音をイコライザーで強める補正)を使いましょう。」というのが定説です。

しかし、私も何度か試しましたが、一般的ななラウドネス補正では、あまり好ましい結果を得ることができません。

書籍「Sound Reproduction」の中で、米国ハーマン社のトール博士は次のように説明しています。

・小音量再生時に高音と低音の双方を増強するのは誤り。
・補強すべきは、ラウドネス曲線の差分に相当する低域のみ。
・しかし、音の強弱をもつ音楽に対して、完璧な補正は難しい。





「音痩せ」の本当の原因は?

私が考える音痩せの原因は、以下の4つです。

実効SN比
低音解像度
帯域バランス
周波数フラットネス

先に挙げた「等ラウドネス曲線」も音痩せに影響があるのは間違いないのですが、ここで挙げた4つの方が遥かに影響が大きいという認識を持っています。

そして、これら4つの原因は機材の選定次第で影響を軽減することが可能です。小音量再生が得意な機材の特徴を把握し、機器選びに役立ててもらえれば幸いです。




音痩せの原因1「実効SN比」

「SN比」という言葉は、皆さんもどこかで聞いたことがあるかと思います。 ノイズに対して信号(シグナル)がどの程度かを規定する言葉で、SN比が大きい値であるほどノイズが少なく高純度な音が再生できます。

 SN比=S(シグナル)/N(ノイズ)

さて、「実効SN比」とは何でしょうか? これは、実際に使用する条件ではSN比が様々な要因によって変化するため、「実際の」という意味を込めて作った言葉です。

まず、再生音量が変わったときのSN比を考えてみましょう。
アンプからスピーカーに出力される信号のイメージを図にしてみました。



最大音量で再生しているときは、SN比としては最も大きくなります。
そこから、音量を絞っていくと、S(シグナル)強度は小さくなりますが、N(ノイズ)強度は変わらないため、SN比はどんどん悪くなってしまいます。



つまり、小音量で再生している実際の試聴条件は、アンプのSN比が低くなってしまうのです。これが実効SN比という考え方です。

SN比が低いと細かな音が聞こえなくなったりします。アンプ本来の性能が良くても、ボリュームを絞るだけでこうした問題が起こるのです。



スピーカーの能率と、実効SN比

次に、2つのスピーカーの能率が違うときの実効SN比を考ええてみます。
高能率スピーカーと低能率スピーカーの二つを比較します。



同じボリューム位置で鳴らした時は、双方とも同じSN比になります。しかし、それでは高能率スピーカーでは音量が大きすぎてしまいます。同じ音量に揃えるためには、高能率のほうはボリュームを絞る必要があります。そうすると、先にあるように実効SN比が低下してしまいまうのです。



つまり、実効SN比という考え方からは、低能率スピーカー(能率80dB/W前後)のほうが好ましい結果が得られるのです。これは、小音量で聴いたときに必ず起こる現象ですが、あまり認知されていないようです。


「高能率スピーカーのほうがアンプに優しい」という話を聞きますが、これは大音量再生での話です。100dBの大音量を得るには、能率80dB/W(1m)のスピーカーでは100Wの電力が必要ですが、100dB/W(1m)のスピーカーであれば1Wで足りるのです。このような大音量再生を望む方は、高能率のスピーカーを選ぶのが良いでしょう。



これは経験則ですが、アンプのボリュームが9時~10時ぐらいが音質・使い勝手の両面からベストパフォーマンスが得られることが多いです。もし、それ以下のボリューム位置で使っている場合は、スピーカーの能率を下げてみるとシステム全体のクオリティが引き上げられるかもしれません。



     




音痩せの原因2「低音の解像度」

音量が上下した際に、解像度が低いシステムほど不満がでやすいものです。音が大きくなれば「騒がしい」、音が小さくなれば「聞こえない」。
高級オーディオと普通のラジカセの違いの一つが、音の解像度です。

これは、音の帯域一つ一つにも言えることです。どこかの帯域に弱点があれば、音量を上下させたときに、そこだけが変化してしまいます。



解像度は、SN比や歪、時間応答など様々な要因が絡んで決まってくるものです。高い音から低い音まで様々な音域があるなかで、特に低音は解像度を高めるのが難しい帯域です。



どのスピーカーでも難しい帯域なので、この帯域の解像度にしっかりとフォーカスをあてて設計しているか否かが重要なポイントになります。
具体的な指標は難しいのですが、試聴した時にゴリッとくる濃い低音が出せているスピーカーは、小音量再生にも強い印象があります。一方で、深々と伸びている低音であっても穏やかな雰囲気の低音再生であったり、空気のように俊敏な低音再生は、小音量再生には不向きな場合があります。


また、「バスレフダクトの設計」も低音解像度を支配する大きなファクターです。バスレフダクトは、共鳴を使って低音を増幅するのですが、音量のスイートスポットが狭いという欠点も持っています。小音量では、ダクトの動作は鈍くなり、音痩せの原因になります。その一方で、大音量ではダクト内で乱気流が発生しノイズが発生します。



ダクトノイズを低減する●●技術搭載!という宣伝文句は多くありますが、それ以上に「ダクトの断面積」が小音量再生への適正を見極めるポイントだと感じています。ダクト断面積が小さいと小音量が得意、ダクトの断面積が大きいと大音量が得意、といった感じです。




音痩せの原因3「帯域バランス」

帯域は基本フラットに設計されますが、一部の小型スピーカーでは低音域が若干少なめになっていたり、中音域の音圧を意図的に下げていることがあるようです。





こうした場合は、大音量で聴いているときは違和感がないものの、音量を下げるとその不足した帯域の存在感が途端に弱まることがあります。これは先に述べた実効SN比と同じ考えが当てはまります。

帯域バランスは、指向性や箱の響きとも密接な関係があるため、直接的に良否を判断するのは難しいものです。例え、測定データがネットに出回っていたとしても、フラットな測定結果が是とは限らないのです。

オススメは実際に店舗で聴いた時に、普通の音量とやや小さめの音量で、帯域バランスの印象が大きく変わらないかを注意深く聴くことでしょうか。




音痩せの原因4「フラットネス」

先ほどの帯域バランスは、低音・中音・高音の全体的なバランスの話でしたが、こちらはその特性の凹凸に着目します。

周波数特性には大なり小なりピーク(山)とディップ(谷)があるものです。特に音量を小さくすると、ディップに相当する部分の音が聞こえにくくなり、情報量が大きく減ったように感じます。




これを試聴で聴き分けるのはコツが必要ですが、平坦さ(フラットネス)に優れるスピーカーは「音が充実していて、かつ情報量が多い」と感じるはずです。

この優位性は小音量再生でも引き継がれ、フラットネスに優れるスピーカーは小音量でも音痩せすることなく楽曲の細かな部分まで聴かせてくれます。

最近は海外サイト「stereophile」などで、市販スピーカーの特性評価を積極的に行っているので、そちらを参照してみても良いかもしれません。





まとめ

以上のように、一般的な「等ラウドネス曲線」以外にも、様々な要素が「音痩せ」の原因になっています。全てを解決したスピーカーは少ないですが、こうした小音量再生で起こる問題に対してしっかりと対策できているか否かは大きな差になってくるはずです。

小音量再生は、オーディオの中でも挑戦し甲斐のあるテーマだと思います。環境を制約と考えずに、アプローチ方法を積極的に探してみるのも良いかもしれませんね。





 


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