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特別企画 スピーカーを作ろう!

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製作記1 (トリニティF)

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 「トリニティF」では、3wayのスピーカーを製作します。3wayスピーカーというと敷居が高いように感じますが、今回は一つづつ丁寧に設計から製作までを書いていきますので、ご安心ください!
 
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3wayスピーカーの意義

 最近はユニットの能力が高くなり、2wayはもとより、フルレンジであっても、音楽を再生するのに十分な再生帯域を確保することができるようになりました。使用するユニットの数を多くすることは、ネットワークを煩雑にし、音をまとめるのも難しくなります。
 しかしながら、高級スピーカーの多くがウーハー、ミッドレンジ、ツイーターをもつ3way構成であることは、この現代でも変わっていません。大音量までの幅広い帯域を、歪を抑えてで再生するには、3way構成は非常に理にかなっているのです。例えば、①低音の大振幅と、中・高音を独立して扱える ②各帯域が得意なユニットを使うことができる ③ネットワークで、意図した周波数特性を作り込みやすい といった技術的なポイントが挙げられるでしょう。

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アドオンウーハー型の3way

 少し前、例えば1980年代までの3wayの大半は、ウーハーとツイーターの間にミッドレンジを入れ込んだような構成でした。つまり、ウーハーが500Hz程度の中域までを受け持ち、500Hz~5kHz付近をミッドレンジが担当するという構成です。これは、低音再生能力を確保しようとウーハーを大口径化したら、中域の質が低下しツイーターとのつながりが悪いのを改善しようとした結果、ミッドレンジを導入した、という設計コンセプトから生まれたものです。ミッドレンジは専ら中音域を扱うことから「スコーカー」と呼ばれました。
 SACD等が生まれ、可聴帯域外の高音が注目された2000年以降は、2wayの高域を補強するために、2way+スーパーツイーターという構成のスピーカーも登場してきました。基本的にはウーハーとツイーターの2way(もしくは3way)で成立しますが、10kHz以上の帯域を最上部のスーパーツイーターが受け持つ3way(もしくは4way)とした構成です。通常のツイーターより小型のユニットを使うことで、可聴帯域外の再生能力を確保する設計でした。

 そして、最近注目しているのが、200Hz~60Hz以下の低音を専用に受け持つスーパーウーハーを2wayに組み込み3wayとしたスピーカーです。ここでは、「アドオンウーハー型」と呼ぶことにします。先ほどとは逆に、2wayとして完成しているシステムの下部をウーハーが下支えするというものです。
 歴史的には「3Dスピーカー」と呼ばれた形式ではありますが、これは普通のスピーカーにサブウーハー(1本)を別筐体で用意したもの。それとは異なり、普通の3wayスピーカーのように一つの筐体にウーハー、ミッドレンジ、ツイーターが収まっていながら、ツイーターとミッドレンジの2wayだけで十分な帯域を再生してしまうシステムを「アドオンウーハー型」と呼んでいます。この形式の特徴は、搭載されるミッドレンジが、まるでウーハーのようにしっかりした構造であることです。
 当初は、点音源思想の名のもとに国産スピーカーの採用が多かったのですが、最近は海外のハイエンドスピーカーでの採用が増えてきています。これらの製品の狙いは点音源だけではなく、低音域のリニアリティ向上だと思われます。特に、ウーハーを密閉型のエンクロージュアとして、低域のレスポンス、応答特性を改善しようとしている製品もあり、実際に聴くと極めてリジッドでダイナミック、それでいて精緻で澄んだ低音であることに驚かされます。

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「3wayスピーカーを自作する」ということ

 フルレンジに比べて、3wayなどのマルチウェイシステムを作製するのはハードルが高いと感じるかもしれません。確かに、ネットワークの作製は、自分の耳だけで行うのはかなり困難で、測定機器を上手く活用しながら進める必要があります。

 しかし、時代が変わり、非常に簡単に測定ができるようになってきました。例えば、3000円台で買えるiPhone用マイク「Dayton Audio iMM-6」は、スピーカー測定グレードのフラットなレスポンスをもったマイクで、アプリと組み合わせるだけで周波数測定が可能です(対応iPhoneは要確認)。また、PC用のUSBサウンドボードとコンデンサマイクを組み合わせれば、2万円弱の初期投資でしっかりとした測定環境を整えることができます

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シミュレーションソフトを活用する

 確かに、測定が簡便にできるのは良いことですが、あくまでも結果論でしかスピーカーを評価することができません。測定で分かるのは、今の状態が良いか悪いかであって、次の打ち手を直接的に提案してくれるものではありません。
 そこで、シミュレーションソフトの登場です。スピーカーユニットの特性を入力し、それを元に回路シミュレーションを行うことで、ある程度の狙いをつけてスピーカーを設計することができます。もちろん、実測データがあれば高精度のシミュレーションができるので、さらに完成度を高めることもできます。
 最近、「VituixCAD」というシミュレーションソフトに出会いまして、その使い方をこちらのページで解説しました。より詳しい解説は、だし氏の資料が参考になると思います。
 いずれにせよ、アマチュアであっても、マルチウェイスピーカーを製作する土壌が整ってきたのは間違いありません。長岡先生時代の「ざっくり作る3way」も楽しいですが、測定やシミュレーションを使った「じっくり作る3way」もきっと楽しめると思います!

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使用するユニット

 今回の作例は、自作派にとって親しみのある、FostexのFE103NVとFE83NVという2つのユニットを核としてた3wayとします。FostexのFEシリーズは、長岡鉄男先生の推薦もあり長年自作スピーカーを牽引する存在でもありました。そのFEシリーズが2019年にモデルチェンジし、FE103NVとFE83NVの二つが登場しました。以前に試聴したことがあり、そのポテンシャルの高さは知っていたので、今回使うことに迷いはありませんでした。(試聴記はこちら
 この2つのユニットは、共にフルレンジとして開発されたため、マルチウェイとして使う作例は少ないかもしれません。しかしながら、様々な複合素材を導入して進化した振動板、エッジを含めて軽量であることに拘った振動系など、他のユニットには代えがたい魅力があります。フルレンジで聴いた素性の良さを生かしながら、今回は3wayシステムのウーハー(FE103NV)とミッドレンジ(FE83NV)にそれぞれ使用してみようと思います。
 ツイーターは、同じFostexのPT20K。安価なユニットですが、堅実に作られたソフトドーム型で様々な使いこなしに応えてくれる製品です。ソフトドームの中でも極めて薄い振動板を持っており、生々しさのある音を期待することができるでしょう。

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上部2wayの設計

 設計は、まず上部の2wayの「容量」を決める所から始めます。ミッドレンジに使うFE83NVにとって適当な容量の箱を用意してやることが設計のポイントで、まだネットワークやツイーターは考慮しなくて大丈夫です。

 本作「トリニティF」では、箱は位相特性が素直な「密閉型」とします。正直に言えば、密閉型の箱容量はよほど小さすぎない限り問題がありません。しかし、せっかくなので上部の2way単体でも実用になるよう「バスレフ型」として使うことも考慮して設計してみました。
 シミュレーションソフトVituixCADに、FE83NVのTSパラメーターを入力し、エンクロージュア特性を計算。3.8Lの箱で、密閉型とバスレフ型の双方で満足のいく特性がでました。

 ~シミュレーション結果~
 <密閉型>                 <バスレフ型(ダクト共振90Hz)>
 


 FE83NVはQtsが0.78あるため、より大きな箱の方が好ましい周波数特性になります。しかし、バスレフ型では、大きすぎる箱はダクトから放射される低音のレスポンスが低下するため、周波数特性との兼ね合いから適切な容量を判断する必要があります。先日の試聴の印象と、今回のシミュレーション結果から、4L程度が適正だと判断しました。

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下部ウーハー箱の設計

 下部ウーハーは、FE103NVに密閉箱を組み合わせます。FE103NVはフルレンジとして設計され、Qtsも0.46と低めです。そのため、単に密閉箱に入れるだけでは十分な重低音音圧を得ることができません。
 そこで、今回はFE103NVの振動板に錘を付加し、f0を下げ、Qtsを上げることにします。VituixCADには、この重量負荷をシミュレーションする機能もあるため、早速活用してみました。

 ~シミュレーション結果~ <密閉型>
  

 今回は、箱容量を18Lとして背圧の影響を抑え、そのうえで振動板に5gの重量付与を行って、低f0を狙いました。結果的にf0c=59Hzと低くなりましたが、Qts=0.86とフラットレスポンスの上限いっぱい(むしろアウト?)という感じです。果たしてどのような音になるか注目です。
 ちなみに、重量付与が4gだとf0c=63Hz, Qts=0.80、重量付与が2gだとf0c=76Hz, Qts=0.67、重量付与なしだとf0c=102Hz, Qts=0.50でした。ご参考まで。


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設計図面

 全体イメージ


 




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 追記中...




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