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08. カタログスペックの「周波数特性」の問題点


 先日、「周波数特性で音質は決まらない!?」というお話しをしました。今回は、さらにそれを掘り下げて、スピーカーのカタログに記載されている周波数特性について解説しようと思います。



カタログ記載の「周波数特性」「周波数帯域」の問題点

大半のスピーカーのカタログには「周波数特性」や「周波数帯域」と称して、〇〇Hz~〇〇kHzのような記載がなされています。スピーカーを選ぶ際に、この表記を気にされる方は多いのではないでしょうか。

 林 正儀のオーディオ講座」より

しかし、この表記は大きく3つの問題点を抱えています。


1. 上限・下限の根拠が不明瞭
周波数帯域の上限(高音)と下限(低音)とは何を意味するのでしょうか。もしかしたら「この周波数を境に音が聴こえなくなる」と誤解されている方もいらっしゃるかもしれません。

実際は少々異なりまして、多くのメーカーは「中音域の音圧から-10dB下がったところ」の周波数を、スピーカーの再生上下限として記載しています。

この基準は比較的妥当性があると私自身は感じていますが、実は-10dBで書くことが義務化されているわけではありません。
厳しめに-6dBのところを書くメーカーもあれば、-16dBのところを書くメーカーもあるようです。


      図1  同じスピーカーでも、周波数帯域が変わる(-6dBと-16dBの比較)

親切なカタログでは〇〇Hz~〇〇kHz(-10dB)のように、どれぐらい音圧が下がったところを上下限としているかを明記してあります。
仮に、-10dB表記を各メーカーが採用したとしても、次に示すような問題が残っています。



2. 音のバランスを表さない

私たちが「このスピーカーは低音が豊かだね」とか「このスピーカーはハイ寄りだね」などと話す場合、その多くが音のバランスについて聴いています。

音のバランスとは、低音・中音・高音の音量のバランスのことです。しかし、これはカタログに記載されている周波数帯域(〇Hz~〇kHz)のような表記に反映されない事があります。


 
    図2 同じ周波数帯域でも、音のバランスが異なる2つのスピーカー

この図で示した2つの特性は、どちらも同じ周波数帯域(-10dBのところ)のスペックになります。

しかし、緑の線で示したスピーカーが、低音(グラフ左側)が弱く、高音(グラフ右側)が強い、ハイ上がりなバランスになっているのは明らかでしょう。

一般的なスピーカーカタログでこの違いを書き示している例はほとんどなく、こうした音のバランスについて事前に知るには、雑誌などの試聴レビューを参考にするしか方法は無さそうです。



3. ピークディップを表さない

スピーカーの周波数特性には、細かな凹凸があります。例えば、「ボーカルのサ行が目立つ」などの、特定の音が強く聴こえて不自然に感じる現象の多くは、この凹凸(ピークディップ)によるものです。

こうした細かいケアができているか否かは、スピーカーのクオリティに大きく影響します。
周波数特性のピークディップが少ないスピーカーは、試聴感想では「質感がいい」「癖がない」などの印象をもたらします。

しかし、こうした細かなピークディップは、カタログスペックの周波数帯域には殆ど反映されません。


         図3 周波数帯域に現れない、ピークディップ

図3で示した赤線と青線は、2つのスピーカーの特性をイメージしています。双方とも、-10dBの箇所を通る周波数は同じなため、カタログスペックでの周波数帯域は同じです。
しかし、赤線は中音域に特性の乱れがあり、質感が悪く癖のある音であることが想定されます。

実際の製品でも、高価なスピーカーと安価なスピーカーが同じカタログスペックをもつことがありますが、こうした周波数特性の凹凸で音質の差を説明できるケースがあります。


このことは「ハイレゾ対応」スピーカーにおいても、同様です。
スピーカーにおけるハイレゾ対応か否かは、周波数特性の上限周波数にのみ起因しており、そのスピーカーの再生音の総合的な品質を示すものではありません。

安価なスピーカーがハイレゾ認定マークがあるのに対し、高価なスピーカーにそのマークが無いことが多々あるのは、そうした理由に基づいています。
ハイレゾは、録音やダウンロード音源の高品質化には非常に大きな功績をもたらしましたが、スピーカーにおいては殆ど意味をなさないと考えて良いでしょう。




周波数特性の「グラフ」があればOKか?

以上に記したように、カタログに記載されている「〇Hz~〇kHz」といった周波数特性(周波数帯域)だけでは音質を示すことは困難です。

それでは、周波数特性の「グラフ」を示せば良いのでは?と考えたくなるものです。

ホームオーディオ用スピーカーで、こうした周波数特性を示しているメーカーは数限られますが、下記にその一例を紹介します。

 
              fostex GX100BJ 取扱説明書より

fostexは、モニタースピーカーから自作スピーカー部品まで幅広く手がけているメーカーで、こうした周波数特性の表を出すことの重要性を理解しているのでしょう。


しかし、実はこの周波数特性グラフでも私たちが聴感で感じる音を説明するのには不十分という見解があります。例えば、次の図を見てみましょう。

AudioScience by Floyd E. Toole, Ph.Dより

スピーカーの老舗JBLなどを束ねるハーマン社に所属するトール博士の文献から引用しましたが、スピーカーから出た音は直接リスナーに届くだけではありません。壁や床、天井に反射した音を我々は総合して聴いています。

これらの反射音は、スピーカーの正面(先ほどの周波数特性グラフ)で測定された音ではなく、スピーカーの側面や背面方向に放射された音になります。つまり、これらの評価なしに音質の良し悪しを判断することはできないのです。

こうしたことから、オーディオマニアの間では「正面軸上で測定された周波数特性グラフだけを見ていても、音の良し悪しは分からない」という議論がしばしばなされています。




特性でスピーカーの良し悪しは判定できるのか?

周波数特性に現れない音の要素として「歪」や「時間応答(トランジェント・位相)」、さらには計器では測定困難なもの含まれるとする意見もあります。
この議論は未だに決着がついておらず、雑誌の評論も含めて【聴感】つまりリスナーが聴いたときの感想を最優先として判断するするのが現在の一般的な評価方法になっています。

その一方で、先に挙げたハーマン社のトール博士は、これらの様々な要素のうちスピーカーの軸外の周波数特性を総合的に考慮することで、十分に音質の評価が可能である、という見解を示しています。


 
 軸外の周波数特性を考慮した、周波数特性の表示「スピノラマ」
 AudioScience by Floyd E. Toole, Ph.Dより

トール博士はそれを「スピノラマ(spinorama)」と称し、その評価手法が米国家電協会CEAの「家庭用スピーカーの標準測定法(CEA-2034)」に登録されたことで徐々に有名になりつつあります。

このスピノラマ手法に関しては、次回より詳しく説明しようと思います。




まとめ

スピーカーを試聴する環境が限られるなか、カタログスペックで良い商品を選びたいと思うのは自然なことです。

しかしながら、スペックだけでスピーカーの性能を示すのは想像以上に難しいのです。
やはり自分自身の耳で試聴したり、他の人(可能であれば自分と嗜好の近い評価者)のレビューを参考にしながら選ぶのが、今現在の主流だといえるでしょう。



 


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