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1-03 デメリットとメリット


バックロードホーンは、好き好みが分かれる方式だと言われます。確かに、好きな人は代えがたい魅力のあるスピーカーだと言いますが、そうでない人にとっては良い音と感じないというコメントを耳にします。

では、バックロードホーンのデメリットとメリットは何なのかを考えてみようと思います。


 デメリット
  ・低音が干渉する
  ・音道が共鳴する
  ・内部で定在波が発生する
  ・同じ低音を出すのに、箱が大きくなる

 メリット
  ・能率の高いスピーカーが作れる
  ・小口径フルレンジと雄大な低音を両立できる


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デメリット① 低音が干渉する

バックロードホーンでは、ユニットの背面の音をホーンで前面に持ってきます。この時、ユニット前面の音と、ホーンを通って出てきたユニット背面の音が混ざり、干渉を起こすことが問題になります。

  バックロードホーンのデメリット「音の干渉」

図に示すように、ユニット前面の音(青矢印)と、ユニット背面の音(赤矢印)が混ざるとき、「逆相」もしくは「正相(同位相)」の位相の関係になります。
「逆相」で混ざるときは、右上の図のように双方の位相が逆になり、音は打ち消されて小さくなります。その逆に「正相」で混ざるときは、右下の図のように双方の位相が同じになり、音は大きくなります。

たとえば、2.0mのホーン長の場合、85Hz, 255Hz, 425Hzが正相に、170Hz, 340Hz, 510Hzが逆相になります。実際は、ホーン内部の共鳴による位相変化や、ホーンロードによる振動板運動の抑制などが起こりますが、こうした干渉による周波数特性の凹凸は、原理的に免れないと考えてよいでしょう。

しかし、バックロードホーン設計の段階でホーン開口部とユニットを離した場所に配置することで、この干渉をマイルドにすることができます。理由は定かではありませんが、音が放射される空間位置を遠ざけることで、それぞれの音が混ざる前に壁の反射などの影響を受け、位相関係が複雑化するためと考えています。


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デメリット② 音道が共鳴する

「バックロードホーンは共鳴管の動作を併せ持つ」としばしば言われますが、この理由について考えて見たいと思います。

本来、理想的なホーンは、共鳴しないものです。音がホーンの出口に向かって一方方向に流れているだけと考えます。 こうした理想的な状態は、ホーン出口(開口端)から空間へスムーズに音波が流れ出ている時のみに起こる現象です。
これを実現するには、音の波長に応じた口径のホーン出口面積が必要になります。詳細は省きますが、下記の図のような計算をすることができます。

 バックロードホーンの理想的なサイズ

50Hzの低音に対して、この理想的なホーンを当てはめると、直径6.4mの開口部を持つ巨大なホーンが必要だと分かります。これは「音響抵抗」という考え方から求めた値で、実際はもう少し小さな断面積でも、理想に近い動作をするという見解もあるようです。いずれにしても、理想的な低音ホーンは家庭用オーディオとしては非現実的な大きさになってしまうのです。

バックロードホーンのデメリット「ホーン音道の共鳴」

そこで、一般的に製作されるバックロードホーンでは、理想的なホーン(=十分な大きさに広がるまで伸ばしたホーン)を途中で切ったような形としています。この場合、ホーン開口部で音の反射が起こり、それが「共鳴(気柱共鳴)」を引き起こします。

これらの共鳴による周波数特性のピークディップは、現実的なバックロードホーンではほぼ避けられない現象です。さらには、ホーンの折り曲げ方や、広げ方により、「ホーホー」「ボンボン」という共鳴音が顕著に目立ってしまうこともしばしば起こります。

バックロードホーンの設計では、吸音材をホーン内部に敷設したり、特殊な音響構造を組み込むことで、この共鳴音を抑え込む試みがなされます。また、最も低い共鳴音(=基音)で超低音域の音圧を増強し、よりワイドレンジな再生を試みるのは多くの設計者が意識的に実施しています。

共鳴はバックロードホーンにとってかなり厄介な現象ですが、それを適切に制御し、魅力的な音に結び付けていくことが、設計者の腕の見せ所になるでしょう。



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デメリット③ 内部で定在波が発生する

一般的に製作されるバックロードホーンは、その構造体の内部で定在波が発生しやすいとしばしば指摘されます。下記図のような構造の場合、ホーンを構成する板材は上下・前後・左右が平行になっており、定在波が発生する「2つの平行面がある空間」を十分に満たしてしまいます。

  バックロードホーンのデメリット「定在波」

ホーン内部に吸音材を入れることで、これらの定在波は多少緩和されます。しかしながら、音を伝搬するホーンの内部を吸音材で満たしてしまうのは非現実的です。
板の配置を斜めにして、テーパーのある管にする工夫もなされます。この斜め板を使う方法は、低音の伝搬に少なからず影響がある(概して大人しくマイルドな低音になる)ので、設計者の好みが分かれる対処法だと感じています。

ホーン内部の定在波は「ビンビン」「ヒンヒン」といった付帯音として感じられます。ホーン内部を硬質な塗膜で覆ったときや、ホーンから適切な量感の低音が再生できていない時に、顕著な違和感として感じやすいようです。
逆に言えば、ホーン内面が無塗装であったり、正しく設計されているバックロードホーンでは、こうした症状が目立つことは少ないと感じています。



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デメリット④ 同じ低音を出すのに、箱が大きくなる

市場に多くあるブックシェルフ型は、バスレフ型です。バスレフ型は、小型でありながら低音下限を容易に伸ばすことができます。

一方で、バックロードホーン型は、小さい箱容量のなかで低音を伸ばすのが苦手です。ホーンの原理から、低音を出すにはある程度の長さと開口部をもたせることが必須であり、自ずと容量が大きくなってしまうのです。

  バックロードホーンのデメリット「本体サイズ」


バックロードホーンは、ある種「容積で低音を出す」というスピーカーなので、サイズが大きいことが魅力のある音の源泉でもあるのです。これは、チェロやコントラバス、大太鼓やチューバといったアコースティック楽器に近い考え方だといえます。
同じ音階の低音を電子楽器で出すこともできますが、アコースティック楽器から出る味わいのある低音は格別なものがあるのではないでしょうか。自然な音の広がりや放射特性を利用して、低音を奏でる。アコースティック楽器に近い発想のスピーカーがバックロードホーンなのです。



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以上、4つのデメリットを書いてみました。それ以外にも「設計しにくい」「製作が難しい」といった製作者にとっての難点もあるかもしれません。

次に、バックロードホーンのメリットを挙げてみようと思います。


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メリット① 能率の高いスピーカーが作れる

バックロードホーンの最大のメリットは、能率の高さでしょう。普通のスピーカーでは、80~90dB/W・mがせいぜいですが、バックロードホーン型であれば90~100dB/W・mのような高能率を実現できます。

10dBの差というと小さく思えるかもしれませんが、アンプの出力でいえば10Wと100Wの差になります。能率が高いスピーカーほど、同じ音量を出すのに小さな電力で済みます。 そのため、ドラムのような瞬発力のある音を軽々と出すことができるのです。


なぜバックロードホーンが高能率なのか。それを紐解くには【スピーカーユニットの設計思想】を含めて考えていく必要があります。

高能率なスピーカーを作ろうとすると、小さな電力をより効率よく音波に変換することを考えないといけないので、「振動板を重くしない」「駆動する磁石(磁気回路)を強く」という設計思想のスピーカーユニットを用意する必要があります。しかし、このような高能率なスピーカーユニットは、磁石によるコーンの「制動」が勝ってしまい、低音が出にくくなってしまうのです。

バックロードホーンのメリット「高能率」

こうした低音不足を補うのに最適な方法が、バックロードホーンです。低音から中低音まで幅広く増幅できるホーン構造は、高能率なスピーカーユニットと非常に相性が良いのです。

バックロードホーンによる低音不足解消


こうした高能率思想のスピーカーユニットとの相性の良さに加え、バックロードホーンのホーン構造による放射効率の良さ(一般的なブックシェルフ型スピーカーで用いられるバッフルステップ補正の分を考えれば、+6dB程度の高効率)も高能率を支える理由になっています。


バックロードホーン以外でも、中高音域にホーンを搭載した大型スピーカーであれば、能率96dB以上の製品も多くあります。しかし、これらは高級な大型スピーカーか屋外用のスピーカーになってしまいます。高能率ならではの音の魅力を、安価に楽しめるコストパフォーマンスの高さはバックロードホーン型の隠れたメリットだと言えるでしょう。

さらに言えば、能率の差は音量だけに留まらないという見解があります。 十分なパワーを持つアンプを使っていても、高能率なスピーカーは朗々とした鳴りっぷり、弾けるようなエネルギー感を表現しやすい、と言われることが多くあります。 バックロードホーンの豪快かつキレのある低音を耳にしたことがある人は、この定説に思わずうなずいてしまうことでしょう。



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メリット② 小口径フルレンジと雄大な低音を両立できる

フルレンジスピーカーは、幅広い帯域を一つのユニットで再生する方式です。古典的なフルレンジもありますが、現代のフルレンジスピーカーは2wayや3wayにも劣らないほど素直で精緻な音の表現が楽しめるものが多くあります。
フルレンジスピーカーは、音の帯域を分割するクロスオーバー回路が不要であり、シンプルイズベストの志向にマッチするものです。回路の部品一つで再生音の音色は変わるため、それらを省けるフルレンジ方式には大きなメリットがあります。

フルレンジスピーカーは、原理的に口径が大きくなるほど高音が出にくくなる、高音の指向性が狭い(スピーカー正面から離れた時に、音が聴こえにくくなる)といった現象が起こります。

その一方で、小口径のフルレンジは、概して低音の再生が苦手です。技術的な詳細は省きますが、高音域まで綺麗な音で再生するためには、コーン紙を薄く軽く作る必要があり、どうしても低音が出にくくなってしまうのです。

その結果、8cmから10cm口径、大きくても20cm口径のものが近年のフルレンジスピーカーでは一般的です。それでもこれらのフルレンジスピーカーを同口径のウーハーをもつ2wayや3wayスピーカーと比較すると、いくぶん低音が寂しくなってしまう傾向があります。

そこで、低音をしっかりと増幅できるバックロードホーンとの組み合わせが有力な解決策になります。バックロードホーン型は「ホーン」の構造を使って低音を増幅しているために、バスレフ型等と比べて幅広い帯域の低音を増幅することができます。口径を凌駕するような雄大さを感じる低音はバックロードホーンの独壇場だと言えるでしょう。

小口径フルレンジから充実した低音を引き出す


現代の小型市販スピーカー(バスレフ型)は、低音の再生能力が著しく上がっており、バックロードホーンだからといって低音が出るとは言い難い状況になってきました。それでも空気が揺れるような豪快な低音質感の表現はバックロードホーンの独壇場だと感じています。その理由を端的に説明する術を私は持ち合わせていませんが、先に述べた「能率」が大きく異なることが一要因と思われます。



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まとめ


バックロードホーンのデメリットとメリットをそれぞれ説明してきました。バックロードホーンは、高忠実度再生や、多数決で決める音質評価では不利な方式だと言わざるを得ません。しかし、それを上回る魅力があることは、根強いファン層がいることから伺い知ることができるでしょう。

近年は、工作キットにより安価でバックロードホーンを手に入れることもできますので、ぜひ挑戦してみて頂きたいと思っています。



  

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